第8話 レイラ 負を求めし剣聖 その3

 帝国軍を打ち破った三年前のあの日。絶望の淵にいたレイラを引き止めたのは国王であった。


 自らの指導力で戦況を変える事の出来なかった国王に、戦で疲弊し切った国民を導くだけの求心力はない。この大戦を終焉へと導いたのは誰の目から見ても、幼き英雄のレイラなのである。

 この時の国王にはレイラのカリスマに頼るしか術がなかったのだ。


 だが、戦いを終えて、武功を上げた者達が、次々に戦功報告に王都へと帰還する中で、たった一人王都に現れずその一切の戦功を放棄した人物がいた。


 それこそが英雄レイラである。


 英雄。


 剣聖。


 レイラと言う少女を語る上で、どうしてもつきまとうそれらの言葉。


 しかし、それらの言葉を彼女は一度たりとも欲した事は無い。彼女が心から欲したもの。それは、自らを打ち負かすことの出来る人物。ただそれだけであった。


 そして、彼女が知る限り、それが出来る人物は、自分に剣技を授けた兄たった一人なのである。




 何時まで経ってもレイラが王宮へ現れ無いことを危惧した国王は、何としてでもレイラをさがし出すべく、国全土へと触れを出した。

 そして、英雄レイラが一人憔悴しきった姿で見つかったのが南方山岳地帯の小さな村ウルマルであった。


 王宮へと召し出されたレイラがその後、国王とどの様な会話をし、約束を交わしたかは分からない。

 しかし、そのすぐ後に新しく白騎士団が編成され、彼女はその団長の席に座ることとなる。



 今年も、諸侯や貴族達を前にして王宮内で執り行われた戦勝式典は何一つ滞る事なく順調に進む。そしてその式典の最後には、王宮のバルコニーから顔を出した国王自らが王城へと詰めかけた国民や兵士達と共に、改めて戦勝の喜びを分かち合うのである。


 そしてその際に、今年もまた国王の隣に立つ救国の英雄レイラの口から王国主催の武術大会の開催が宣言された。





お集まりの方々。


皆様がよくご存知の通り、私は『負を求めし剣聖』と呼ばれている。


王国軍が帝国に勝利したあの日。


私は、失望した。


何故なら、あれ程までに我らが国土を侵略した帝国軍の中に、私を打ち負かす事の出来る剣士が一人たりともいなかったからである。


だが、私は諦めはしない。


この大陸の何処かに、私を打ち負かすことの出来る者が必ずいるはずだ。


我こそはと思う者は、名乗り出よ。


私を打ち負かし、剣聖の名を奪ってみせよ。


自らの武勇をこの王都で示して見せよ。





 武術大会の開催は三ヶ月後。


――今度こそ、あの人は大会に現れるだろうか……。

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