第3話 カイル プロローグ その2

 この際だから、正直に言おう。


「妹のレイラはバカだ」


 いやいや、頭が悪いとかそんなのじゃなくて。あいつはバカ正直なんだよ。まだ八歳なんだからそれは当然なのかもしれないいけど。あいつは、まず人を疑うということを知らないんだ。


 だからすぐに友達に騙されるし、それに気づきもしないんだ。


 そして、そんな妹につい調子に乗って嘘なんかついちゃった俺は、もっともっとバカだった。


 多分、妹が言いふらしたんだと思うけど……。いつの間にか事情を知っちゃってる村のみんなにだって「おい。何時になったら妹に本当のこと言うんだよ?」なんて心配されて……。恥ずかしいったらありゃしない。




 でもさぁ……。


「ゴメン。お兄ちゃんは、もうレイラに本当のことを言うの諦めた」


 だって、お兄ちゃんは。レイラにずっとキラキラした目で見てもらいたいんだ。そしてずっとカッコいいって言われ続けたいんだよ。


 だからできる限り嘘を貫き通すことに決めた。


 バレるのが、あと1年後か、それとも10年後かわからないけど。バレたらもちろん軽蔑されるだろうけど。


 あの尊敬の眼差しが気持ち良すぎるのが悪いんだ。



 だからさ。俺は、これからある作戦を決行する。


 レイラに偽の剣技を伝授するのだ。秘伝のとかなんとか妹をうまいことごまかして、俺が前世の日本で見てきた漫画や小説の知識を総動員してさぁ。

 魔剣の使い方から、か◯はめ波の撃ち方まで馬鹿みたいな蘊蓄うんちくなら、俺の頭の中にたくさん入ってんだ。


 もしかして練習したら本当にできるかも知れないだろ?


 だって、この異世界には本物のドラゴンだっているし、魔法なんてデタラメなものまであるんだぜ。



 だからさ、剣術だって……。


 もちろん派手すぎるのは駄目だ。お手本を見せてやることが出来ないしバレる。


 小説で読んだ宮本武蔵?北辰一刀流?


 いやいや、そんな現実的なんじゃ駄目だ。よ〜く思い出せ。俺が知っている最強の剣術を……。


 そうだ。


 あの剣法があるじゃないか。俺の知る限り最強の剣法。


 それは……。



 と、まぁこんな調子で俺は嘘に嘘を重ねて、出来もしない嘘の剣術を妹に教えてやることにしたんだ。


 本当に俺って最低だよね。漫画や小説の必殺技なんか出来るわけ無いじゃんね。そんなの中学生の時、ベッドの上で試してるから良く分かってるっつの。

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