第4話 同じ趣味?

僕なんかとあの有栖川氷織が急に親しげに話せば、当然、かどが立つ。


クラスであんな呼ばれ方をされたらたまったものではない。


何より、そのせいで彼女のクラスや学校での価値を下げてしまうようなことになるのは嫌だった。


僕と氷織は互いの関係を秘密にすること、表での立ち回りや呼び方を改めて確認した後、別々に教室に戻った。


無論、僕からの一方的なお願いでしかないので、氷織は多少不満そうだったが、なんとか了承してくれた。


そして放課後。


午後の授業ギリギリに戻った氷織とじっくり話すため、最初に彼女の元へ向かったのは潮海だった。


「ちょっとひおりん。休み時間どこ行ってたのよ。すぐ戻ってくるって言ってたじゃない。みんな心配して……」


「ごめんねぇ。偶然先生に仕事押し付けられちゃって」


「そうなの?言ってくれれば手伝ったのに……っていうかひおりん、なんか声枯れてない?目も腫れてるような……?」


「そ、そう?ちょっと風邪気味なのかも?」


「もう、気をつけなさいよ。のど飴ならあるけど」


「さっすが、あまち。ありがとー」


「ちょ、く、くっつかないで」


有栖川氷織と潮海雨音。この二人が一緒にいるだけで、男女問わず、周りに人が集まっていく。その中でもすぐに輪の中心に入っていくのは二人のイケメン。


「……有栖川。お前どこ行ってたんだよ」


「もうその話終わってるわよ。話聞いてた?」


「るせって。いちいち茶々いれてくんな雨音」


「ドンマイ修斗。聞いてなかったお前が悪い」


「チッ。燐、お前もか」


僕は相変わらず一人で帰り支度を整えながら、その光景を見ていた。


「ありゃ?三咲くん。帰るの?またねー」


「あ、えっと、う、うん。じゃ、あ、有栖川さん」


ただ挨拶をしただけなのに、何故かあいつ生意気だな、みたいな視線いくつか注がれる。

僕のカーストの低さも大概だが、ここまでくると、それ以上に氷織の人気に驚いてしまう。


本当にさっきの出来事は現実だったのだろうか。


そう思えるほど、やはり金髪紫眼の彼女は別人で、頭が痛くなってくる。


「あんなんにまで声かけなくていいだろ有栖川。相変わらずだな」


「……別にいいじゃん」


「あ?なんか言ったか?」


「ん〜?何が?」


逆巻の言う通りだ。なんでわざわざ声かけてくるんだあいつ。


潮海とは中学からの親友で、逆巻や成瀬とも中学からの友達らしいがみんな本当の氷織のことは知らないようだ。


まぁ、どっちにしろ僕と彼ら彼女らとじゃ住む世界が違う。


携帯でソシャゲアプリを開き、黙って孤独に下校する。それだけだ。


「……いて」


携帯を見たまま教室を出ようとすると誰かにぶつかった。


「あ、わり……ってお前か。ちゃんと前見て歩きなよ」


うるせぇよ。殺すぞ。テメェが前見て歩けや。誰だお前。


「ご、ごめん……」


僕を見た途端態度を変えたクラスメイトに、思っていることと真逆のセリフを吐く。


所詮、これが僕。僕の学校生活。


とぼとぼだらだらと帰り道を進む。


今日は僕が小学生の時から愛読してるラノベ、マホヤミの新刊発売日だ。本屋寄って帰ろう。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




本屋に入り、うすら寒い表紙が並ぶビジネス系の本棚をするすると抜け一直線にラノベの新刊コーナーに向かう。


どうにか目当てのものを見つけた。


「あっぶ。最後の一冊だ」


ひやっとはしたが逆にちょっと嬉しくなった僕が意気揚々とマホヤミ新刊を手に取ろうとすると、


「あ……」


白くてすらりとした綺麗な手が僕の手の上に乗った。


くそ、こんなお約束展開リアルにいらないのに。


新刊を譲りたくないため、どう交渉するか考えながらその手の主を見て、僕は驚愕する。


「有栖が……」


有栖川氷織。


「むぅ」


「氷織……なんでここに」


学校とは違う黒髪姿の希薄な表情。それなのに何故か学校よりむしろ感情が剥き出しに見える彼女を見て、僕は言い直した。


「やっと……気づいてくれた」


「は?」


「ずっと隣に……いた」


ずっとっていつからだ?怖いから聞かんとこ。


「ずっといたんならなんで同時に新刊に手を伸ばすの。普通あり得ないよね」


「……好きかと思って」


こういう使い古しの王道展開が?狙ったのかよこいつ。

馬鹿にすんな。


「ちょっとしか好きじゃない」


「やっぱり……好き」


「だからちょっとっつってんだろ。もう一回聞くけど、なんでいんの?」


「今日、マホヤミの新刊発売日……だから。つきくん……いるかと思った」


「クラスの陽の人達と帰ってると思ったけど」


「週末だけはカフェでバイトって……断ることにした。バイト……してない……けど」


「なんで」


「たまに……つきくんと帰りたい。特別な友達……でしょ。今は誰も学校の人……いない。いいでしょ?」


「そりゃまぁ……そっか……」


「……うん」


完全に論破されていたので、素直に承諾すると、氷織はわずかにはにかんだ。


「じゃあ僕、これ買ってくるから」


「……待って」


手首をガッツリ掴まれる。なんか微妙に力強いんだよね怖いんだよね。


「何?」


「それ……私も読みたい、の」


ほう、ならば戦争、だな。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る