第46話 第一エリア、最後のボスへ



 配信をしながら一日レベル上げをした結果。

 俺と千春とヤックルは全員レベル八になり、問題児のティティはレベル四となった。やはりレベルが低いうちは上がるペースが速い。倒している魔物は俺よりもレベルの高い魔物だし、そのおかげもあってスイスイとレベルが上がった。


 ちなみに、昨日の時点で俺を含めたヤックル以外の三人は、新しく武器を購入した。

 千春の弓は竹製のもので、攻撃力はプラス12。金額は四千八百円だ。

 そして俺とティティは五千円を払い、ようやく武器らしい武器を入手した。俺は刃渡り六十センチほどの西洋剣で、ティティは短いナイフを二本。


 二刀流が彼女の本来の戦闘スタイルなのだろうかと思ったけど、どうやらいまハマっているパチンコのキャラが二刀流を使っているらしい。お金は俺が出したんだから、無駄にならないことを祈るばかりである。



 今回倒すボスは、街から南西にある洞窟内にいる、双頭の竜である。

 神の子遊戯のしおりを見る限り、サイズは羽を広げた状態で十五メートルほどらしい。

 このボス情報も、第一エリアだけしかわからないから、第二エリアに行ったら情報無しで挑まなければいけなくなるんだよなぁ。

 これまではぶっつけ本番で挑めていたけれど、今後はそうもいかなくなるかもしれない。


「そろそろアプリを閉じなさいティティ」


 お昼過ぎに、俺たちは街を出た。

 以前行ったスカルアーチャーがいた洞窟よりもさらに大きな洞窟に入り、雑魚敵であまり体力を消費しないようにしながら、俺たちは奥へと進む。ボス戦当日だが、相変わらずティティはパチンコに夢中である。ここまで来れば一種の才能なんじゃないかと思えなくもないな。


「待ってくれ千春。すでに私はこの台で六百回転も外しているんだ。確率は三百分の一だから、そろそろ確率が収束して大当たりが連続するはず」


「閉じないとそのスマホへし折るわよ」


「……ヤックル、千春がイジめる」


「あ、いいですねその泣き顔! 犬畜生さんいかがですか!?」


 泣き顔のティティを見ると、ヤックルは配信のカメラに向かってそんなことを問いかけた。配信画面をスマホで確認してみると、犬畜生が『寿命が延びました』というコメントと共に三万円投げていた。ダックスのやつ、全財産つぎ込む勢いだな。

 睨む千春に根負けして、ティティはしぶしぶと言った様子でスマホをポケットにしまう。


「まぁそう落ち込むなって。パパッとボス戦を済ませればまたやればいいし」


「仕方がないか……今日だけは歯を食いしばって我慢しよう」


 と、ティティは言葉通りにギリギリと歯を食いしばっていた。そこまでかよ……ギャンブル中毒者怖い。

 そんな話をしながら洞窟を探索していると、どうしても避けられない場所に二匹の魔物が滞在していた。ここに来るまで何度か見かけていたが、レッドゴブリンである。

 街の外の草原にいる緑の肌のゴブリンと似ているが、肌は赤黒く、サイズも一・五倍ぐらいの大きさだ。


「魔物戦、お手並み拝見しようか」


「この労力をパチンコに注ぎ込みたい……!」


「働け」


 ことあるごとに口からギャンブルの話題が飛び出してくるティティの背中を押し、魔物に近づいていく。すると、戦闘開始の合図となる半透明のドームが俺たちを素早く覆った。


「じゃあ一匹任せてもいいか? レベル差、結構あるけど」


「手数は必要だろうが、平気だ」


 ヤックルが即座に敵二匹の前に飛び出して、ヘイトを溜めている。あんなアホ毛を揺らす生き物が目の前で「私は……アホ毛を置き去りにする――!」とか言いながら反復横跳びをしていたら、そりゃイラつくだろうなぁ。


「ヤックル、私のほうはいいから一匹だけでいいぞ」


「ティティさん、私の役割を奪うつもりですか!? ぽっと出の新人の癖に調子に乗らないでください!」


 なぜかヤックルの当たりが強い。

 昨日までそんな感じじゃなかったのに、なんでだろうか。


「アプリだと景品のお菓子がないからじゃない?」


「あぁ……それでか」


 なんて現金なやつなんだ。

 ティティに鋭い視線を送りながらも、しっかりと敵の振り回す鉄パイプを躱すヤックル。相変わらずステータスは速さに極振りしているので、スピードは上がる一方だ。


 ヤックルの反応に肩を竦めたティティは、洞窟内を進む時と同じように敵へ向かって歩いていく。ヤックルのヘイト集めが意味を成しているのか、レッドゴブリンはティティに気付くのが少し遅れていた。


 そして、レッドゴブリンは右手にもったナイフを真っ直ぐに前へ突き出すティティを脅威と感じたのか、ヤックルから視線を外してティティに向かって走り始める。

 そして上段に構えた鉄パイプを、勢いよく彼女の頭目がけて振り下ろした。

 ――が、


「……なるほどねぇ。勉強になる」


 ティティは歩みを止めないまま、するりと鉄パイプを躱してナイフをレッドゴブリンの喉元に突き刺す。さらに左手に持ったナイフで、胸を突き刺した。

 マジで無駄がまったくない動きだし、どちらも人体で言う急所を捕えているのだけども、攻撃力が足りなかったのか、まだ敵は死んでいなかった。


 ステータスも均等に上げたようだし、レベル差もあるからなぁ。それに、ここは血も吹き出さない作られた世界だ。急所もクリティカルが出なければ特に意味を成さないだろう。

 しかしティティはまったく慌てていない。


 レッドゴブリンが横薙ぎに振るった鉄パイプをゆったりとした動作でナイフを使って逸らし、さらに追い打ちを加える。そんな無駄のない動きを数度繰り返して、彼女は無傷で魔物に勝利したのだった。



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