第33話 変な人が来た


 

 スカルアーチャーを倒してから数日――俺たちはレベルを上げ、ギルド設立のためのお金を貯めながら、もう一人の仲間を探していた。


 しかし、以前としてソロ活動している参加者は見つからず、街の外で会う人はみなパーティを組んでいる状態だ。街の中を歩けば一人で歩く人はいるのだけど、むしろ街中は一人で歩いている人のほうが多いぐらいなので、ソロ探しには向いていない。

 掲示板などを使用して情報を集めてはいるものの、俺たちは依然として三人での行動を続けていた。


「俺は問題なし」


「私もオッケーです!」


 賃貸を管理する不動産屋にて、俺たちは新たな住処への契約をしていた。

 レベルは全員が6になり、倒す魔物のレベルも上がってきたことで、収入も上がってきた。いまでは一日で三万円以上の収入が得られるようになったし、生活費でお金を使いながらも貯金額は六十万円を超えている。


 今回契約するのは、2LDKのプレハブ住宅。


 外観はベージュと茶色のタイルで覆われており、屋根は平らで斜め。この街にある一軒家と違って庭は狭いものの、家賃が月七万円であることを考えると十分すぎる気もする。


 ちなみに、一ヶ月経つ前に退去した場合、日割りで返金されるそうな。

 ギルド設立のための資金を貯める為に少しでも節約し、あのアパートで暮らすという案もあったのだけど、肝心のもう一人のメンバーの宛がないために、こうして新居契約に踏み切ったというわけだ。


 俺としては、千春と隣で寝ることができなくなるので、少し寂しい。

 荷物は契約した段階で自動的に転送してくれるそうなので、引っ越しの必要はなし。段ボールに詰められて送られるようなので、荷解きは必要になるようだが、なんとも楽な転居である。


 で――だ。

 パパッと俺の名義で契約を済ませてから、俺たちは不動産屋から新居へ直行。

 カードキーで鍵を開錠し、いざ室内へ。


「一番乗りですーっ!」


 玄関扉を開けるなり、俺の腕の下をすり抜けてヤックルが突撃。試練の宝箱でゲットした紫電靴を脱ぎ散らかして、廊下を走っていった。


「見た目相応ね」


「中身は千春より年上なのにな」


 千春はまだ十七歳。俺は誕生日を迎えているので十八歳になっているが、どうやらこの世界では年を取らない仕様らしいので、この世界から出ない限り俺たちの年齢はこのままだ。


 ヤックルが脱ぎ散らかした靴を揃えてから、俺と千春も家にあがった。

 廊下を一度右に曲がると、正面にトイレ、左手に洗面脱衣室とお風呂、そして右手にはリビングへ続く扉がある。


 カウンターキッチンがあるいわゆるLDKという部屋になっていて、この部屋から個人の部屋となる洋室に行くことができるといった感じだ。

 不動産屋で事前にホログラフィックで室内の様子を確認していたけど、想定した通りで安心である。


「この部屋の押し入れ使っていいですか!?」


 リビングから寝室の一つに繋がる引き戸を開け放ち、ひょっこりと顔を覗かせてヤックルが言う。


「二部屋あるんだから別に押し入れで寝る必要はないだろうが――というか、部屋割りってどうするんだっけ?」


 リビングの中央で、壁際に積まれた段ボールを見ながら素朴な疑問を口にする。

 俺たちは三人で、寝室は二つ。

 別に個人の部屋に執着はないし、リビングで俺が寝れば良い話なのだけど、念のため聞いてみた。すると千春は「そうねぇ」と口にしながら黄緑色のカーテンを開け、さらに窓も開けてからこちらを振り向く。


「普通に考えて、女は女、男は男で分けるのがいいんじゃないかしら?」


 そういうことになった。

 ヤックルは相変わらず押し入れのままで、その部屋に千春が寝る。俺はもう一つの寝室というわけだ。そりゃそうか。


 ほんの少し千春と同室になることを期待していたがために、少しがっかり。

 今までが普通でなかったことは理解しているけど、生活の質を上げるとなかなか落とせないって言うじゃないですか? 千春と数日間一緒に寝ていたから、別々に寝るとなると寂しい。


 段ボールを運び入れる千春の後姿を眺めていると、インターホンが鳴った。


「ん? 誰だろ」


 現在この家を知っているのは俺たち三人だけ。

 となると、可能性としては不動産屋ぐらいだと思うのだけど……。

 不審に思いながら廊下を歩き。静かに玄関扉のドアスコープを覗く。

 土下座する赤髪の人がいた。


「え、えぇ……」


 とりあえず、回れ右。

 おそらく骨格的に女性なのだけど、当然ながら俺の知り合いではない。

 となると、可能性としてはヤックルの知り合いということになるので、俺は彼女がいるであろう部屋にやってきた。


「おやおや蛍さん、乙女の花園に入りたかったんですか?」


 押し入れからひょっこりと顔だけをだして、アホ毛を揺らしながらむふふと口に手を当ててヤックルが言う。


「なんか赤い髪の人が玄関前で土下座してるんだけど、ヤックルの知り合い?」


「無視!? まさかの無視ですか!? 最近私の扱いが雑になってきている気がするのですけど!」


「元からでしょ――で、その人はなんの用なのかしら?」


「いや、放置してきたからわからん」


「じゃあその人、いまも土下座したままなの?」


「たぶんそう」


 良く考えたら、俺ってなかなかひどいことをしているな。

 でも人の家の玄関前で土下座をする奴も非常識だし、お相子ってことにしておこう。うん、そうしてください。


 このまま家の前で土下座をされても迷惑なので、千春とヤックルを引き連れて三人で玄関に向かう。ドアスコープを除くと、そこには先ほどと変わらず土下座をきめている人がいた。


「変な奴じゃないといいけどな……」


「変な人であることは確定していると思うけどね」


 俺の望みを潰さないでくれ。俺も薄々そう思いながら口にしたんだよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る