第34話 もうそろそろ決めてくれ(陸奥志津香視点)
大会も近いってのに、女バスの朝練は行われない。(そりゃ私がスラムダンクしたからなんだけど)
ルーティンの朝シャンをして、トリートメント&ヘアオイル。髪の中間から毛先に向かってスラムダンクはしたらダメ。優しく手くしで浸透させてあげるのが乙女的ポイントシュート炸裂。
サラツヤ年上風味の同級生幼馴染を完成させると、いざ蒼の家にレッツゴー。
できるわけねええええええ!
なんかいつも通りの爽やかな朝を演出したけど! したけども!? 無理無理無理! 絶対に無理!
私、昨日、なにされた!? ええ!? なにされた!?
チューされたんだよ!
ひゃっふゅー!
とか内心喜びけど、実際は蒼の家に足が向かないっての。
いや、ね。そりゃ私が煽る形だったからさ、されても文句は言えない。というか、むしろ良いんだけどね。アリよりのアリすぎてアリアリなんだけど……。
やっぱりいきなりのキスはちょっと……。え? お前も裸エプロンしただろって? ええい、そのネタはもう封印してくれ。
とかなんとか考えながら、もう学校に到着しちゃったよ。教室に入ったよ!
「ぬ?」
いつもの教室に入って真っ先に蒼へと視線が向いてしまう。意識しまくりだからこそ最初に見るのは蒼の姿。
だが……。
あんにゃろ。まぁた成戸と喋ってやがる。くそぼけ。
こちとら蒼のことしか考えてないってのにあいつはキスした翌日には他の女ですか、へぇそうですか。
恥じらいよりも怒りが勝った感情になり、私は蒼に一言申してやろうと会話に割って入ろうとする。
けど……。
あかん!
急旋回!
私はナチュラルに自分に席へと逃げた。
いや、まともに蒼の顔見れない。キスされた後の女子はどうすれば正解なの? クークール先生もなにも教えてくれないし、なんなの? クークル先生って童貞なの? 私の方が恋愛豊富なの? なんでも教えてくれるんじゃないのかよ、ちくしょうが。
「ぬんあああぁぁぁあ……」
「おはよう陸奥さん。朝から凄い唸り声だね」
「なんでおのれはまだ絡んでくるんだよ」
「そりゃ美女が僕を呼んでるからさ」
「てめ、おら、私のどこが美女じゃないんだ? ああ?」
「え? いや、え? ええっと……あれ? 伝わらない? 今の伝わらない?」
クソ野郎と会話中に「志津香」と耳に幸せボイスが轟いた。
やっば。今の蒼と、どんな風に絡んだら良いかなんてわかんない。
「お前の機嫌の悪い理由、聞いてないんだけど」
うっわ。そういえばそんな約束した気がする。
どうしよう。なんて答えて良いかわかんない。
どう答えようかパニックになってとりあえず立ち上がった。
「うるせえ! この男版の天然ジゴロ!」
「くっくっくっ。陸奥さん。ジゴロはそもそも男のことを差すから、男版はいらないよ」
「うるせぇわ! なんちゃってイケメンがっ!」
「あー、確かになんちゃってイケメンだな。横溝」
「なっ!? んだと……。異性、同性からもイケメンと名高い僕が、なんちゃって、イケメンだって?」
「そりゃ、なぁ」
「うん」
蒼と顔を合わせて頷くと横溝が、「ばかなあああ!」と教室を出て行った。
それを生温かい目で見送ると、互いに我に返った私たちは、顔を慌てて逸らす。
「このアバズレがあ!」
とりあえず、そう言い残すしか私にはできなかった。
♢
あー、もう、サイアク。なに? アバズレって……。
トイレの鏡を見て、自分自身に問いかけるが返答はない。そりゃ言った本人が意味わかってないんだから答えなんて出ない。
「はぁ……」
「「志津香」」
ため息を吐くと、千佳と友梨がやって来てくれる。
「登校してからいきなりトイレダッシュってことは」
「まぁた水原となんかあったっしょ」
「ふたりともー!」
ふたりの言葉にとりあえず千佳の胸に飛びついた。
あー、この子の胸なんでこんなにふわふわなんだろう。くやしー。
「まったくこの子は……」
「しょうがない奴だ」
やれやれとため息を吐いた友梨がポケットからしおしおのチケットを取り出した。
「昨日、商店街のくじ引きで当てた、遊園地のチケット」
「これで水原くんと幼馴染って関係に終止符を打ちなよ」
「それって……」
「「押した倒せ」」
「遊園地で!?」
ふたりの目はまじだった。
しかし、ふたりにはとても世話になっている。これ以上、うじうじじれじれとしているのも申し訳ない。
「……わかった。蒼を遊園地デートに誘ってスラムダンク決めてやる!」
「「潰したらだめだよ」」
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