第29話 カフェ、くーるだうんへの乱入(水原蒼視点)
「こりゃまた派手にやられたねぇ」
放課後のバイトの時間。おやじが俺の頬を見て苦笑いを浮かべた。
「こりゃまた派手にやられたよねぇ」
勉強の休憩の合間に店に降りて来ていた紗奈も呆れた笑みを浮かべていた。
「ほんまそれ……」
いや、ほんと、俺が悪いかもだよ。
なんか知らず知らずのうちに志津香に悪いことしたかもって思って、そのわかってない部分も含めて謝ろうとしてるってのに、まじに右ストレートでぶっ飛ばしてくるとかある?
「ま、どうせ蒼が悪いんだろうし、志津香ちゃんに謝りなよ」
「そうそう。どうせ兄さんが悪いんだよ」
「おい、家族共。事情を聞いてないのにどうして俺が悪いと?」
「蒼のことで志津香ちゃんが悪かったことなんてないんだからね」
「兄さんがさっさと告らないからじゃん」
「蒼から告ったら全部丸くおさまるのに」
「タラタラジレジレとこんなに長引かせるから」
「「右ストレートくらうんだよ」」
おやじと妹が辛辣に右ストレートよりも強烈なパンチを放って来ている気がするんですけど。
「しかしだな、あのクールな志津香に俺から告ったら絶対にバカにされる」
「「うわぁ。ほんとバカァ」」
「ちょ!? 可愛い息子&カッコいい兄さんにアホとはなんだ!? この家族共!」
「「アホじゃなくて、バカァだよ?」」
「一緒だわ! 中華そばとラーメンくらい一緒だわ!」
そんなやりとりをしていると、カランカランと店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
すぐに接客用の声に切り替えれる辺り、俺もちょっとずつプロに近づいて来てるんだな。
「げっ!」
とかなんとかほざいている二流カフェ店員が私です、はい。
「あ、やっぱりここでバイトしてる噂は本当だったんだ」
成戸麻衣は俺を見つけるなり可愛い声を放ってくる。
「なにしに来たんだよ」
「あれあれー? そんな言葉遣いはだめだなぁ。私、お・きゃ・く・さ・ま、だぞ☆」
イッラ……。
「失礼しましたお客様。どうぞ、お好きなお席へ」
「ふふ。接客姿、まぁまぁかっこいいぞ☆」
このアマ、しばいても良いかな。
「あ、ね、水原くん。外でも良いの?」
この質問は普通にしてくるので、こちらも店員としてちゃんと説明する。
「テラス席は当店の自慢なので、どうぞお試しください」
「それじゃ外に行こっかな」
ルンルンっと成戸さんが外に出て行ったところで、おやじと紗奈が近づいて耳打ちしてくる。
「誰? あの可愛い子」
「まさか兄さんの彼女……とか?」
「んなわけあるか」
「「ですよねー」」
二人が安堵を息を吐いた。
「クラスメイトだよ」
「クラスメイト?」
「ただの?」
「ほとんど喋ったこともないクラスメイトだ」
「蒼が志津香ちゃん以外を店に連れて来るとか、ただならぬ関係では?」
「そうだよ! 友達のいない兄さんが店に連れて来るなんてただごとじゃないんだよ!?」
「連れて来てねぇわ! つか友達いるわっ!」
この親子、ひどい。
「あいつが勝手に来たんだよ。てか、カフェで働いてることも教えてないってのに」
「え? それって」
「まさか……」
おやじと紗奈が顔を見合わせてなにかに勘付いた様子だったが、テラス席に座った成戸さんがこちらに向かって注文をご希望なもんで、それに応えて接客に伺う。
「「まさかの志津香ちゃんに恋のライバル?」」
この親子はさっきからシンクロしててうざいですけど。
「んなわけねー」
おやじと紗奈のこぼした言葉をしっかりと拾い上げておく。
成戸さんが俺のこと好きとかあり得ないだろ。だって、まともに喋ったの今日が初めてなんだぞ。
「ご注文はお決まりですか?」
「この店のおすすめってなに?」
「そうだなぁ」
メニュー表を見ている成戸さんへ指を差して教えてやる。
「はちみつとキャラメルのワッフルとかおすすめかな」
「それじゃそれを──」
『ちょっと! なにしてんの!?』
聞き慣れた声に成戸さんと一緒に振り向くとそこには志津香がご立腹な様子で立っていた。
♢
「ねぇ紗奈」
「ん?」
「蒼ってば、さっきのクラスメイトの子と距離近くない?」
「おすすめ聞かれて教えてるだけでしょ」
「ま、うん。我々からすればそれで済むんだけど、見てみ」
「あらま、志津香ちゃん、いつの間に。部活はどうしたんだろ」
「部活も気になるけど、珍しく挨拶もなしにドスドスとテラスの方に行っちゃったね」
「ありゃ一悶着あるよね」
「見守るか(にたにた)」
「見守りますか(にたにた)」
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