第27話 クリティカルノックアウト《物理》(水原蒼視)
昼休みに志津香を貸してくれると佐藤さんが言ってくれたが、それってのは佐藤さんのお膳立てってことで良いのだろうか。
それならば心強い。佐藤さんは志津香といつも一緒だからな。
「ね、水原くん」
四限ももうすぐ終わりを迎える時間帯。
昼休みにどうやって志津香に喋りかけるかを考えていると、隣の席の成戸が絡んできやがる。
頬杖ついて、こちらを見てくるが、こいつのせいで志津香に誤解されたんだ。あんまり絡むと火傷するだろうから、シカトを決め込む。
黒板を見つめ、「俺は授業に集中してますよぉ」なんてオーラを出すが、成戸さんはこちらをジッと見つめてくる。
「……んだよ」
耐えられなくなり、成戸の方を見ると、タイミング良くチャイムが鳴り響いた。
彼女の視線は顔の方ではなく、俺のおへそのちょっと下辺りに向いていた。
こいつ、もしや淫乱? 男のバナナをむさぶるビッチ?
おいおいまじかよ……可愛い顔して俺の童貞を狙う獣か
だめだ、だめだ!
俺の童貞は志津香以外にはあげないもん! 絶対だもん!
「さっきから気になってんだけどさ。いくら暑いからってチャック全開でパンツ丸出しなのはやめた方がいいよ」
「なぬ?」
視線を下へ。
うおおおおお!!
俺の蒼いパンツがモロだしじゃねええか!
え? うそ。いつからだよ、ちくしょうが。
「もっと早く言えや」
慌ててチャックを閉める。
「あえてかなって。私に見せてアピールかと」
「んなわけあるかっ」
「そ? でも、こんなに可愛い女の子にチャック注意されるの興奮するでしょ?」
「するかっ。どんな変態だよ」
「……中々手強いわね。私に注意されて好きになった男子は星の数いるのに」
どうしようもない変態がこの世にはいるが、それが大量発生しているとは驚きだな。
なんて思っていると、俺と成戸の間にいつの間にか志津香が立っていた。
「志津香?」
ビビった……。今の変態チックな会話聞かれてないだろうな。
彼女の名を呼ぶと、急にもじもじとしおらしくしている。なにがあった。
「ね、ねぇ、そ、蒼。ちょ、ちょっとぉ、ツラ貸してよぉ」
「ええっと」
なに? パンツの話聞いてたの? それにしてはこの反応はいかがなものでしょう。
戸惑っていると、ガシっと手を掴んでくる。
「ほ、ほら、来てよ」
強制的に連行させられてしまう。
「ちょ、ちょっと待て志津香」
なんで恋人繋ぎなんだよ、ちくしょうが、ドキドキしちゃうだろうが。
そんな手の繋ぎ方で、ずいずいと廊下を進んでいき、こちらは緊張で足がもつれてしまう。
「うおっ……!」
案の定、ドジっ子成分を出した俺はそのまま倒れそうになる。俺のドジっ子成分とか誰得だよ、おい。
「おっと」
倒れそうな俺をすかさずキャッチする王子様な行動のお姫様。
流石は女バスのエース様。イケメン過ぎてやっぱり好きだわ。
「って、逆、逆!」
「なにが?」
「確かに、なにがだろうな」
転けそうになっている人を支えるのに逆もくそもない。
それはどうだけど、とりあえず志津香から離れる。
「いや、てか、急になんだよ。まさか俺と恋人繋ぎしたくて仕方なかったのか? ここ、学校だぞ」
そう言うと、黙りこくって自分の手を眺める彼女は、澄ました顔して言ってきやがる。
「あれって恋人がする繋ぎ方だったんだ。意識してなかったらわからなかった」
「いや、普通わかるだろ」
「彼氏のひとりもいたことないから知らないよ。それは蒼もだよね? なんであれが恋人繋ぎって知ってるの? 調べたの? 意識してるの?」
なんでこんなに詰めてくるの? 怖いんだけど。
「そんなことより、無理やり連れて来てなんか用かよ」
こちらとしては呼び出す手間が省けてラッキーだが、怒っている志津香が一体なんの用だろうか。
もしや、これが佐藤さんのお膳立てだろうか。
「それはごめん。成戸さんとの会話に割って入って……。でも、なんか耐えられなかったから」
うっ……。やっぱり聞かれてたか。
そりゃそうだよな。幼馴染のパンツが丸出しの話なんて聞きたくもないわな。
「あれは違うぞ。別にパンツの話ではなくてだな……」
誤解を解こうとすると、「あ?」と殺気を感じた。
「パンツ? は? パンツ?」
「あれはな……」
「え? なに? 成戸さんのパンツ見ようとしたの?」
「は? なんの話だよ」
「……こっちから謝ろうとしたってのに、こいつは裸エプロンの幼馴染では飽き足らず、隣の席の女のパンツを欲してやがるのかよ……」
「ちょ、なに? なんで殺気出してんだよ」
「この、ど変態!」
「あびしっ!」
志津香の華麗なる右ストレートが炸裂し、俺はクリティカルノックアウトしてしまった。
なんで、俺、殴られてるの?
あと、志津香。お前、絶対ボクシングした方がいいぞ……。
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