第20話 花嫁修業は修了しています(陸奥志津香視点)
幼馴染(妹)と入れ替わりに幼馴染(好)が、クールに、そしてスタイリッシュに私の隣に座った。
かっけー。真隣に座る蒼、まじで神。ずっと見てられる。
普段なら絶対にそう思っていたに違いないが、今の心境は……。
きまZ。
今の精神状態で蒼とふたりっきりなの、まじで辛辣。
だってさっき、裸エプロンを披露してるからね。新妻アピールしてしまったからね。
いや、新妻もそんなことするかっ!
「志津香」
「は、はひっ」
名前を呼ばれて噛んでしまった。
そんな私を見て蒼は、なんも心配すんなっての、みたいな優しい顔をしてくれている。
「俺さ……志津香がバグったと思ったんだよ」
仰る通り過ぎてなんも反論できねぇ……。
その通りだよ。ちくしょうめ。
もう白旗上げて、楽になろうかな。
そしたら、裸エプロンがバグった行動じゃなくて、好きな人には裸エプロンが効果的だって聞いたからって言い訳できる。
バグった幼馴染で終わるより、きみを好きで必死に行動した幼馴染って思われた方が乙女的ダメージが低いよね。
「でも、でもさ……」
こちらがひっそりと覚悟を決めていると、蒼は遠い目をして語ってくれる。
「志津香はなんもバグっちゃいない」
「……え?」
どういう判定?
あれをバグったと言わないとか、好きな人だけど、大丈夫か? おい。
「志津香はなにもおかしくないんだ。世の中にはもっと上がいるってことがわかった。そうだよな。幼馴染同士、裸エプロンくらいするよな」
しねーよ? 普通はしないだろ。
はっきり言って、私が蒼のことを好き過ぎて、好きが振り切った結果の裸エプロンだからね。そこら辺勘違いしないでよね。
って、普通なら思うんだろけど、これは好機。
「そ、そうだよ。きみと私は幼馴染。それくらい当然さ」
きっと、蒼が出掛けた間に私より酷い、なにかを見たのだろう。ありがとう、見知らぬバグった人。おかげで命拾いした。
「ああ。裸エプロンは普通。常識だな」
「常識、常識」
ここは、彼の間違った常識に合わせておこう。
「そ、蒼。お腹空いたでしょ? まだ温かいから、ご飯、一緒しよ」
目の前に広がる料理を目で差して、食事を促すと、手を合わせる。
「いただきます」
「はい。いただきます」
彼に続いて、私も料理に手をつける。
──うん。我ながら上手にできたな。
いつでも蒼の花嫁になれるってもんだ。
花嫁修業? そんなもん幼少の頃に終わってんだよ。こちとら、蒼のためにガッツリ仕上げてきてんだから。
自分の料理に自画自賛している場合ではない。
蒼が私の料理を美味しそうに食べてくれているのを見て、お弁当のことを思い出す。
そもそも、裸エプロンも、元をたどれば玉子焼きが原因だ。
ここでしっかり清算しておかないと。
「ごめんね」
「……ん?」
急に謝ったもんだから、蒼が何事かと箸を止めて首を捻る。
「お弁当。作るならもっと気を使えば良かったよね。私、蒼に辛い過去を思い出させる気とかは全くなくて……」
素直に謝ると、「ばぁか」と小さく返されてしまう。
「俺は志津香の玉子焼きが大好きなんだよ。なんで謝ってくんだよ。泣いたこといじってるのか?」
「ちがっ……。そうじゃなくて……」
「はは。珍しく焦ってやがる」
「そりゃ焦るよ。だって、だってさ……」
「志津香」
私の気持ちを落ち着かせるかのように、優しく名前を呼んでくれると、クールの中に、温かさを感じる微笑みで言い放ってくれる。
「また、お弁当作ってくれよ。もちろん、玉子焼き入れてな」
「蒼……」
その言葉で救われた気がした。
気にしてない。俺は志津香の玉子焼きが本当に好きだ。
と言われた気がして、とても嬉しかった。
泣きそうになるのをグッと堪えて、誤魔化すように言ってやる。
「し、しょうがないな。また、作ってあげるよ」
「さんきゅ」
自然とお弁当を作る機会を手に入れたかと思うと、蒼は箸を進めてボソリと呟く。
「それにしても、志津香。また腕を上げたよな。これも、めちゃくちゃ美味しい」
「べ、別に、普通じゃない?」
わー! もう、いきなり褒めるなよー! こちとら褒められ慣れしてないんだよ。ばか。
「ば、晩御飯も、また作ってあげても良いけどね」
よ、よし、なんとか言えたぞ。
「バスケ部終わりに作れるんか?」
「毎日は無理だけどね」
本当は毎日作ってあげれるけどね。
「……じゃ、まぁ、無理じゃない程度で、お願いしようかな」
しゃ! おりゃ! こいつ、もう私の料理に釘付けじゃんかよ!
「お願いします」
こりゃ、蒼が私にデレるのも時間の問題か。
明日から料理の動画巡りじゃい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます