プロローグ
「一連の殺人事件は、私が主犯です」
高倉有隆はスマートフォン越しに森警部補にこう呟いた。
森警部補は困惑した。
つい先程までバリアフリートイレ内で倒れている撲殺遺体を見ていたのだが、急に高倉から業務用スマートフォンに連絡が入ったのだ。近くの地下コンコース内を工事中の作業音が煩く、森警部補は声を張り上げた。
「どういう意味だ。俺の妻もか」
森警部補は先程の戸惑いから、急に自分の妻の最後の姿を思い出し、怒りが込み上げてきたのを感じた。森の妻も一連の撲殺事件の被害者だった。
「そうかもしれませんね」高倉は少し黙った後、悪びれる様子もなく自然に答えた。
「そうかもしれないって、どういうことだ」森警部補は怒りが収まらなかった。自分が殺した人間の事も覚えていないのかと思った。「ふざけるな。何のために」
「それは、お答え出来ません」高倉は困ったように森警部補の言葉に返答した。
工事中の音が煩く、高倉の声が聞き取り辛い。バリケードテープの向こう側に居る一般市民と、周囲に居る警察関係者がこちらを見ている。
森警部補は自分の近くに居る警察関係者にも高倉の声が聞こえるよう、持っていたスマートフォンの音量をマックスにし、スピーカーモードにした。
「今何処にいる」森警部補は怒鳴り声を出した。
「今は、私が犯罪の指示を出した者達と一緒に居ます」高倉は静かに答えた。
「居場所を言え!」森警部補は工事の音に負けないように大声を出した。隣に立っていた野村警部補がこちらを凝視して、自身のスマートフォンをスーツの胸ポケットから出した。
高倉はしばし黙った。工事の音だけが周囲に響いている。森警部補の周囲に居た鑑識の人間、野村警部補が森警部補の方を見ている。
「すみません、それは言えません。さようなら」高倉はそれだけ言うと通話を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます