TRIANGLE~揺れる男~

実果子

第1話

「先生、次の患者さんお呼びしても良いですか?」

 陽気が爽やかな春のある日、看護師の横田が伺いを立てた。

「あぁ、頼む」

 患者のカルテに目を通しながら、美容外科医の柴田龍二が答えた。

 柴田は、三年前から都美容外科クリニックの院長を務めている。

二十八歳の彼は、雑誌でも取り上げられたほど凄腕の有名医師だ。

彼に整形して欲しいとやってくる男性患者は後を絶たない。

 柴田は、男専門の整形を手掛けているのだ。

「うん。術後の経過は良好みたいですね。何か違和感とかあったら、直ぐにまた来てください」

 モデルにもなれそうな程に整った顔をした柴田は、眼鏡の奥で患者の男に微笑みかけた。それを見て、患者の男は一瞬見惚れていたが慌てて返事をした。

「は、はい。分かりました。ありがとうございます。先生のおかげで、自信を持って過ごせそうです」

 二重まぶたの施術を受けた患者は、最高の敬意を柴田に表して頭を下げる。

「それは良かったです。私も嬉しいですよ」

 そう言うと、柴田は患者の耳元に顔を近づけた。この行動に、患者は身を固くする。

「もし良かったら、今度食事に行きませんか?」

  柴田が耳元で囁くと、患者は大いに驚いた。

「え!?」

「本当はこういうことはいけないんですけど、ぜひ芳田さんとご一緒したいな、と。黙っていていただけたら、食事代以外のお金も弾みますよ」

 柴田は、囁きを畳みかけた。

「え、いや……俺はそんなつもりじゃ……」

 いつもの他の患者たちと同じ反応だ。柴田もそんなことは分かっている。

「いいじゃないですか。一回だけでも。ね?」

 柴田は魅惑的な笑みを患者に向けた。

これが、いつもの柴田の手段だった。彼は、整形を施してより顔が整った男たちを誘い、金を渡して口を封じているのだ。もちろん、食事だけで終わるはずもない。

この芳田という患者も、柴田の毒牙にかかり堕ちた。

「そう……ですね……じゃあ、一度だけなら……」

 柴田がこんなことを始めてから二年ほどが経つ。初めはちょっとした出来心だった。自信に眠る”欲”を満たすために始めた。

綺麗に仕上がった、好みの患者の男たちに声をかけては自身の美貌を武器に、次々と落としていくのが、柴田の日常だ。

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