第6話

美樹は佳奈を支えながらその後を追った。



首が見つからないまま朝が来た。



こんなことは初めての経験だった。



愕然としたまま美樹に連れられて大輔と合流した。



大輔と春香は青ざめているが、あれから黒い化け物たちに攻撃されるようなことはなかったみたいだ。



「慎也の首はどうした?」



その質問に3人は答えられなかった。



大輔と春香もそれ以上はなにも聞かなかった。



ボロボロと涙を流し続けている佳奈を見れば、答えは聞かなくてもわかっていた。


☆☆☆


失敗した。



首を見つけられなかった。



首を見つけることができなかったら、その相手はどうなるんだろう?



一旦慎也の家に戻ってきてからの佳奈は呆然としてしまい、動けなくなっていた。



いつの間にか涙は止まっていたけれど、今度は頭の中が真っ白になる。



考えないといけないこと、やらないといけないことは山のようにあるはずなのに、なにもできない。



「応急処置はしたけど、やっぱり病院に行った方がいいと思う」



春香は大輔の手当を終えて行った。



ひとまず止血はできたようだけれど、傷が深くでいつまた出血するかわからない状況だ。



このまま放置しておくのは危険すぎた。



「病院か、めんどくせぇな」



大輔がチッと舌打ちをするが、出血が多いせいかやはり顔色が良くない。



病院へ行くとどうしてこうなったのか説明する必要が出てくる。



本当のことなんて言えるはずがないから、適当な言い訳を作らないといけない。



「明宏、なにかいい案はないかな?」



春香に聞かれて明宏は「病院での言い訳か? そうだな。適当に通り魔に襲われたとかでいいと思う。警察に説明することになっても、仕方ない」と、思案顔で言った。



絶対に捕まることのない通り魔事件だ。



それから春香は大輔と共に病院へ向かった。



「今日も首を探すことになったら、大輔は行けないな」



明宏は左右に首を振りながらつぶやく。



できれた体力に自身があって、喧嘩になれている大輔が一緒にいてくれた方が心強い。



だけど、怪我をしている大輔を無理やりつれていくわけにはいかない。



下手をすれば今度こそ黒い化け物に殺されてしまうかも知れない。



「それより、慎也のことだよ」



椅子に座ってジッとテーブルを見つめていた美樹が震える声で言った。



慎也という名前に佳奈がビクリと反応する。



「あぁ、そうだな……」



忘れていたわけではない。



確認しなければいけないとわかっていたけれど、口に出せずにいただけだ。



「地蔵の首になる」



佳奈がポツリと呟いた。



それは夢に出て首を取っている影が、いつも残していく言葉だった。



「慎也の首は地蔵の首になったってことだよね?」



佳奈に聞かれて明宏は左右に首を振った。



「わからない。でも、あの夢の言葉どおりならきっと……」



明宏がすべてを言い終わる前に佳奈は勢いよく立ち上がっていた。



「慎也の首があるなら、確認しに行かないと!」



やっと頭の回転が戻ってきた。



涙はすっかり引っ込んで、これから先どうすればいいのか考える。



とにかく今は地蔵を確認しに行くことが先決だ。



明宏と美樹は顔を見合わせた。



朝までずっと首を探していたから少し休みたい気持ちもあったが、さっきシャワー

を浴びたので十分だった。



「そうだな、行こう」


☆☆☆


その首無し地蔵は選ばれた人間にしか見ることができないらしい。



そして、6人は全員その地蔵を見ることができていた。



昨夜も訪れたそこには5体の首無し地蔵があり、足元には自分たちが探しだしたガイコツが3つ置かれている。



それでも誰かが警察に通報した様子はないので、このガイコツも選ばれた人間にしか見ることができないのかもしれない。



「首が……」



地蔵の前までやってきて佳奈は愕然とした声を出した。



首無し地蔵の1体に石でできた首がついているのだ。



一番右手の地蔵で、その顔は慎也にそっくりなのだ。



「慎也!?」



明宏が驚いて声を上げる。



きつく目を閉じた地蔵の顔は誰がどう見ても慎也その人なのだ。



「慎也、嘘でしょ……」



佳奈は両手を伸ばして地蔵の頬を包み込んだ。



ヒヤリと石の感触が冷たくて身震いする。



『地蔵の首になる』



あの夢で見たとおりのことが起こっている。



朝までに首を見つけることができなかったから……!



「どうすればいいの? これ、どうすれば持って帰ることができるの!?」



地蔵の顔を両手で包み込んだまま佳奈が混乱した声を上げる。



「佳奈やめて、それは持って帰れないよ」



美樹が後ろから佳奈の背中を擦った。



友人からどれだけ優しくされても佳奈は納得しなかった。



だって慎也の顔は今ここにある。



これを持って帰れば、きっと慎也は目を開けてくれるはずだ。



そう信じて疑わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る