宇宙(空)の色

真砂 郭

勝手なおんな

春の夜はまだまだ遠く

宵闇の夢は彼方にあって

桜のつぼみは

硬くて碧い

並木道


寒くて冷たい

夜の息

吐き出せば肺の中

温もりは街の灯りに溶けてゆく

足取りを追えば

影法師の靴音ひとつ

そしてふたつ

並んで行くは一つの影に


そのさえずりは星の声

星座の呼び名は忘れたけれど

糸で結んで

あやとりすれば月の影

水面に映るの

白い顔

覗き込んでは

揺らぐ夜


二人で行こうか

瞳がのぞく男の声音

それともひとりで(独りの夜道を)

送ろうか

ああ、その声に聞き覚え

何度も聞いた昼の声

初めて聞くは夜の声


「帰りたい」

言葉に出して呟いた

震える声が囁いて

冷たい息の独り言

酔ったあなたは誰のせい

あたしのせいとは言わせない

優しいそぶりは誰かのせいよ

知らないふりは許さない


娘と呼ぶには角が立つ

おんなと呼ぶには早すぎて

幼馴染のように甘えてみたく

どこかの誰かに

誰かをどこかで愛してみたい

夢十夜のお伽話に憧れて

成り損ねるは誰の事


おんなの名前を一筆書きに

胸に抱える

腹にいち物

おりがたまれば

雫のように

滴り落ちるは雨の音


ひとしずくは墨滴のように

甘くてそれはほろ苦い

黒糖の後ろめたさが子供の疼き

拙くて甘美な余韻

舌に残るのあなたの記憶

もう忘れたかしら

もう忘れるかしら

どこかに誰かの声もする


勝手なおんな

誰かのせいよ

今宵の月に


黒髪に匂う

夜のとぎ

きまぐれな双六のように

右往左往な

春の灯りの夢芝居

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