第43話 アクセレート
「お兄ちゃん! 入口に魔物が集中して現れてるよ!」
「やっぱりか!」
「レナお姉ちゃんたちが食い止めているよ! お兄ちゃんたちが倒した巨大魔物がまた現れたの!」
「くっ……!」
広大な範囲に魔物が一切いなくて、探索者たちの周りだけ魔物が現れたこと。
これは偶然ではなく必然と考えるべきだ。ダンジョンで魔物が出現するように、この世界でも魔物が出現する。その場所が決められているんだ。
入口近くにたどり着いた頃、無数の魔物とレナたちが戦っているのが見えた。
「ユウマくん!」
「お待たせ! 巨大魔物の注意は俺が引く!」
急いで巨大魔物に攻撃を仕掛ける。
時間が止まったときとは違って、ちゃんと斬った感覚がある。
巨大魔物の視線が俺に向く。
他の隊員たちが探索者たちを運んでいる間に、俺が巨大魔物を、レナたちが他の魔物を殲滅していく。
改めてみたレナたちの攻撃の華麗さに惚れ惚れする。
探索者トップクラスの実力をこれだけ目の前にしてて、今までどうして参考にしなかったのかと後悔するほどだ。
たくさん見る機会があったはずで、レナから教わったことだけを愚直に繰り返して……。
いや、今はこんなこと思う暇はないか。まずはここから生きていくこと。探索者たちを救助することだ。
巨大魔物の攻撃を避けながらレナたちの攻撃を少し覗き見する。
ふと気付いたことは――――レナも冬ちゃんも魔物の正面の鱗ではなく、関節だったり、喉部分だったり、尻尾の付け根部分を攻撃していた。しかも瞬時に、正確に。
なるほど……攻撃する場所もみんな気を付けているというか、よくよく考えてみると魔物によって弱点があってもおかしくないか。
ずっとスライムとばかり戦ってきたけど、スライムって弱点なんてあるのかな……? あとで聞いてみるか。
巨大魔物が振り下ろす腕を内側から避けると、目の前に腕の付け根部分が見える。
そこを目掛けて双剣を斬り付けた。
いつもよりもずっと深くまで斬れる感覚。
さらに不思議な光の粒子が広がる。
初めての光景に驚きながらも、巨大魔物の連続する攻撃を避けながら腕の内側をしつこく狙って斬り続ける。
蛍の光のような光の粒子が斬り付ける度に周囲に広がる。
斬った感覚とはまた違い、今まで感じたこともない不思議な気配がする。
その時、俺の頭の中に不思議な声が響き渡った。
――【アクセレートエネルギーを回復】
アクセレートエネルギー!? 一体何のことだ!?
何が起きているか理解できないけど、頭をよぎるのはあのとき時間が止まった世界のこと。
あのときの力の名前は知らないけれど、それに関することだと分かるのが自分でも不思議だ。
それから何度も繰り返す。レナたちのように強力なダメージは与えられないけど、これが勝利に何らかの力になると信じて。
「お兄ちゃん! 何とか倒れた探索者さんたちの救助が終わったよ!」
「ありがとう! 隊員のみなさんには外で待機してもらって!」
「分かった!」
人が集まるとより多くの魔物が現れるなら、ここで逃げられるメンバーだけで逃げた方がよいと考えたからだ。
「このまま巨大魔物を倒したら外に向かおう!」
「「「了解!」」」
咲は先回りして入口付近から補助魔法をかけてくれて、レナと冬ちゃんも賛成してくれる。
さっきの巨大魔物のブレス攻撃が入口に向かないようにレナと冬ちゃんは左右に分かれて戦い始める。
巨大魔物が暴れて俺だけじゃなく彼女達への攻撃も続くが、それをいとも簡単に避ける彼女達の姿に息をのんだ。
その時――――
世界がまた灰色に変わる。
――【アクセレート開始】
また止まった!? それにまた変な声が聞こえた!?
空中に砂時計が現れてひっくり返り、砂が落ち始めた。
せっかくのチャンスなので、魔物の色んな場所を斬ってみるが、感覚は変わらず弱点を斬っても増える数字は1だけだった。
前回同様に91貯まったら増えなくなった。
砂が落ちる前に巨大魔物や周りの世界をよく見ておく。
全てが灰色。瘴気の色でさえも灰色になっている。
ダンジョンでは瘴気が見えないが、普通の人なら三時間で限界が訪れる。
目に見える瘴気をそのまま吸い込むと一瞬で体調不良になった。
外に出る前に俺自身も吸い込んでおこうと思う。
――【アクセレート終了】
声とともに世界が一気に色鮮やかになって動き始めた。
巨大魔物に大きな衝撃が与えられ、その場で後ろに吹き飛んだ。
「「!?」」
「気にせずに攻撃の手を緩めないで!」
「「了解!」」
それから全員で攻撃を続けて巨大魔物を倒した。
アクセレートのおかげで非常に冷静になれた。
そこで気になったことを確認しつつ、二人には先に退避してもらい、俺は少しの間、そこに残って目に見える瘴気を飲み込んでみたり、入口付近でしばらく待機してみた。
結果的に何もおきず、俺とアウラは変わった世界を後にした。
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