第41話 不思議なダンジョン?

「お待ちしておりました」


 迷彩色の制服を着こんでいる中年男性が深々と挨拶をする。


 現場を仕切っている軍人のリーダーさんだ。


「事情は全部聞いています」


 ここに来る間、政府と探索者ギルドが協力して作戦を組んでいると聞かされた。


 その主役となるのが――――リサだ。


「こちらも準備は整っております!」


 彼の言葉に応じるように、入口近くには大勢の軍人たちが並んでいた。


 これからやるのは、部隊を分けて中に入って救助活動をすること。


 その主軸を担うのがリサのドローンだ。


 現場の全体映像から判断しながら指示を送る。


 軍人だけでなく、俺達とグランドマスターとの繋ぎもしてくれる。


「ではさっそく入りましょう!」


 中で何が起きているか分からないので、急いで中に入ることにした。




 最初に軍人たちによるいくつもの部隊が中に入る。


 六人一組編成で十組くらいが入り、続いて俺たちも入る。


 アウラに関しては、俺の黒衣のベルトを伸ばしておんぶ紐みたいにして背負っている。


 できれば置いて来たかったけど、彼女の魔法は俺の弱点である攻撃力を補ってくれる。


 ダンジョンはどこも洞窟の作りになっているが、今のCランクダンジョンは全く違う景色になっている。


 ここはまるで――――闇がうごめく世界になっていた。


 地面には黒い砂、地形は高低差が酷くて遠くは見渡せられず、所々には大きな黒い石が見える。


 空気はあるようで呼吸には問題はなく、匂いも外とあまり違いない。


 ただ一つだけ違うなら――――空中を飛び回っている黒い靄。瘴気が目で見えるくらいになった塊に見える。


 イヤホンからリサの声が聞こえる。


「全隊員に告げます。目に見える黒い靄は瘴気ということが分かりました。直接吸い込むと重度の瘴気症を発生するので気を付けてください」


 最初の部隊から瘴気にやられた隊員が出たみたいで、一人の隊員が瘴気で倒れそうになった隊員に肩を貸して、ダンジョンから外に向かうのが見えた。


「お兄ちゃんたちはそのまま真っすぐ進んで!」


「「「「了解!」」」」


 リサの指示通り前を進む。


 ここまで来ても魔物の気配は一切なく、不思議な感じがする。


「%$$“%#」


 アウラが何かを言うが、やっぱり分からない。


 しばらく進んでいると遠くで大きな物音が響き渡る。


 大きな爆発のような衝撃波が吹き飛び、何人かの人が上空に弾き出された。


「みんな! 彼らを助けるんだ!」


「「「了解!」」」


 レナと冬ちゃんがものすごい速度で走り出して、俺と咲もあとを追う。


「――――%#$!」


 アウラの両手から優しい風の魔法が放たれて、上空に投げ出された人々に当たり、落下速度が軽減される。


「アウラ、ナイス!」


 俺も落ちて来る人々に向かって飛び上がり、黒衣のベルトを使って彼らを受け止めて、咲の方に投げ込んだ。


 咲もずいぶんとレベルが上がってるのと、自身にも補助魔法を使って軽々彼らを受け止めては、地面に横たわらせる。


「先輩! 前方の魔物を止めてくださいっ!」


「分かった!」


 救助はレナと冬ちゃんに任せて、俺はそのまま前進した。


 そこに現れた魔物は――――三メートルくらいの大きさの魔物で、灰色の体を持ち、ものすごいムキムキの異型の魔物だった。


 動物のような体だが、その顔は見た事もない悪魔みたいな顔をしている。


 ――――どこか、暗黒獣を思わせるようだ。


 グルァアアアアア!


 凄まじい咆哮が周りに響く。


 他にも探索者たちが見え、震えあがっている者もいれば、全身がケガだらけの者もいる。


「お兄ちゃん! 周りにも魔物がいて各隊が対応してヘルプが遅れちゃう! お兄ちゃんが相手する魔物が一番強そうに見えるよ!」


 構造は変わっても、やはりここもダンジョンということだな。


 ひとまず魔物の注意を引くために一気に距離を縮める。


「――――%%$%!」


 アウラが魔法を放ってくれて、赤青の炎が巨大魔物に直撃する。


 魔物の視線が俺達に向けられた。


 俺も双剣を取り出して巨大魔物を斬り付けた。


 巨大魔物の鱗は暗黒獣のように硬く、傷一つ付かない。


 なのに――――ダメージが与えられた感覚がある。これは…………【追加固定ダメージ】によるものだ。


 巨大魔物が俺に向けて殴り始めるが、暗黒獣ほどの速度はなく、全てかわした。


 振り落とされる太い前足。すぐに双剣で何度も斬り付ける。


「ユウマくん! 合流するよ!」


「レナ! 暗黒獣みたいに鱗が硬い!」


「了解!」


 巨大魔物の視線をレナたちから外すために正面から裏に回る。


 意外というか、特殊な攻撃はしてこず、単純に前足や尻尾で叩き付けるしかしない。


 後ろからレナと冬ちゃんの攻撃が始まった。


 強烈な攻撃の音が鳴り響く。


 グルアアアア!


 巨大魔物が咆哮を上げると、周りに凄まじい衝撃波が放たれてレナと冬ちゃんが吹き飛ばされるのが見えた。


「レナ! 冬ちゃん!」


「私たちは大丈夫! 風圧が強いだけみたい!」


 ケガはないようでよかった。


 今まで気付かなかったけど、【金剛支配者】によって上がったのは防御力だけではないみたいだ。衝撃波も全て無効で吹き飛ばされない。


「――――%%$&#%$!」


 しばらく力を溜めていたアウラからの魔法が展開される。


 大きな魔法陣と共に、眩い雷が放たれて魔物に直撃した。


 轟音と共に巨大魔物が悲痛な叫びを上げる。


 みるみるうちに全身にケガが増えていく。


 飛ばされたレナたちがくるのが見えたその時――――


「っ!? 危ない!!」


 巨大魔物の口に禍々しい粒子が集まり始め、その視線が俺ではなく、後ろからくるレナたちに向いた。


 そこから一気に体勢を変えた巨大魔物は、口から禍々しいビームのようなブレス攻撃を放つ。


 地面を抉りながらレナたちを襲った。

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