第39話 頭を撫でる手と罪深い男

 謝罪配信から初めての配信を始めた。


『英雄殿。配信乙~』


『お~最近にしては一番コメント少ねぇな~』


『あの事件以来だからな~』


 コメントでも謝罪の件で大盛り上がりだ。


 それにしてもまだまだコメントが多い。


 というのも、暗黒獣の一件から爆増した登録者数。あれからはだいぶ減ったけど、それでも俺にとっては十二分に多い。


「みんな~ユウマくんの配信に来てくれてありがとうね~」


 ん……?


「ありがとぉ~」


 レナに続いて咲も手を振る。


 その横からジト目の冬ちゃん。


「先輩は罪深い男ですからね」


「まだ引っ張ってたの!? それ!」


 それからリスナーたちに聞かれて冬ちゃんはあらぬことを吹き込んだ。


「#“%$?」


「俺も味方はアウラだけだな……」


 みんながリスナーたちと盛り上がっている間に、俺はアウラの頭をポンポンと優しく撫でてあげた。


 それからいつもと変わらず魔物を引っ張る。


 気合十分のアウラちゃんの魔法で魔物がみるみるうちに消滅していき、冬ちゃんの流れるような速さで素材を拾っていく。


 その中でも一つ目立つのが――――紫色の小石。宝石のような綺麗さはなく、形もみんなバラバラで色も少しくすんでいる。


「今日は珍しく魔石が多くドロップしますね」


「たしかに、いつもより見かけるな」


「こんな珍しいこともあるんですね。いつもより三倍は多いです」


「三倍も!? 多いね」


「はい。魔石がたくさんドロップするのは環境的にもいいので嬉しいところですね。ほかのパーティーを見てる感じだと魔石ドロップ率が高いようですね」


「ふむふむ…………」


 普段ドロップ品を回収してくれる冬ちゃんだから気付いたんだな。


 三倍か……他の素材より高く売れる魔石がたくさん取れるのはいいことだな。


「ユウマくん? 何か気になることでもあるの?」


「気になるほどじゃないけど、三倍って急にそんなに増えるのかなと思って。他のパーティーでもそうだろうけど、他のダンジョンでもそうなのかな?」


 理由はないけど、ちょっと気になったのでリスナーたちに聞いてみる。


 他の配信を覗いてみるとコメントが流れたので、狩りを続ける。


 しばらく狩りをしていて、やはり魔石のドロップ率は上がっていた。


『他のダンジョンだと増えてないな~』


『魔石ってドロップ率って公式なんてあるのか?』


『魔石は買取値段高いからな~俺達の税金よ~』


 あはは……魔石がドロップすると探索者は喜んで、リスナーは怒るよな。


 まあ、いくら税金とはいえ、環境のためにも魔石がたくさん取れた方がいいだろうに。


Bランクダンジョンここだけドロップ率が上昇しているのか。もしそれだと探索者も増えるかもな」


「Bランクは中々増えないだろうけど、一層は増えるかもね」


 Bランクって上位探索者のランクだ。上にいくとAランクダンジョンもあるけど、日本でも数か所しかないからな。


 いつか自分がAランクダンジョンに入れる日が来たらいいなと思いながら、まず自分が強くなることを意識しなきゃ……。


 リスナーのみなさんに感謝の挨拶をして、時間いっぱいBランクダンジョンで狩りを続けた。




 狩りが終わってアジトに戻ってみんなで食事する。


「先輩? 今日レベル上がったんでしたっけ? いくつなんですか?」


「ああ。今日久しぶりに上がったよ。今のレベルは――――91だね」


「「「「え」」」」


 みんながキョトンとして俺を見つめる。


「どうしたんだ?」


「ユウマくんのレベルってそんなに高かったんだ?」


「えっと、金属スライムを倒したときにレベルは90に上がっただからね」


「「「「あ……」」」」


 みんなが同時に目を大きくして驚いた。


 何だかみんな姉妹みたいに同時に動くのがまた可愛らしいし、微笑ましい。


 まだレベルのことは言ってなかったのもあるし、みんなのレベルもしらなかったりする。


「咲は上がらなかったのか?」


 咲は頭を横に振った。


「たぶんまだパーティー判定ではなかったと思う」


「そっか……あのときは無我夢中だったから……」


 パーティーというのは、決まったものはないが、お互いにパーティーメンバーとして認識・・するだけでパーティーとなる。


 今のパーティーメンバーは、俺とレナ、咲、冬ちゃんの四人。アウラちゃんもメンバーになっているのかは分からない。


 パーティー認識もダンジョン内だけで、どうしてそう判定されるのかは今でも解明されておらず、研究が続けられている。


「でもBランクダンジョンのおかげで私もすごく上がったから……! あまり効果はないけど、補助魔法頑張るね!」


「いや、効果は非常に高いから俺は助かるよ。とくに速度上昇はものすごく助かる」


「そう言ってもらえるとうれしいな~」


 咲の笑顔に思わず手を伸ばして咲の頭を撫でてあげた。


「あっ!? ご、ごめん! アウラで癖になっちゃった!」


 顔が真っ赤になった咲は手で口元を隠して目を大きくした。


「先輩。今度は咲先輩を狙うんですか?」


「ええええ!? い、いや、ご、ごめん。本当に無意識で……」


「お兄ちゃんが…………」


「ち、違うううう!」


 どうしてこうなった!?

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