第14話 配信開始

 翌日。


 寝起きの気怠さの中、ゆっくり洗面台に向かうと、少しボサボサの髪で立っているレナさんがいた。


 一瞬で目が覚めて心臓の鼓動が早まる。


「お、お、おはよう!」


「おはよぉ……」


 こういうこともあるんだろうと思ったけど、実際に朝から会ってみると心臓が持たない……。


 それから咲さんと冬ちゃんも起きて、妹もやってきた。


 部屋の中くらいの短距離なら歩いても問題ない。


 朝の支度が全て終わり、朝食を食べた。


 ダンジョンに向かうまでまだ少し時間があるが、気になる物がある。


「レナさん~これって何?」


「……」


「レナさん……?」


「……」


「ご、ごめん……やっぱり馴れ馴れしいよね……」


「違うよ! さんはいらないってば! レナって呼び捨てにして!」


「っ!? レ、レ、レ…………レナ……」


「うん! なに~?」


 朝から爽やかな笑顔、ありがとうございます。


「この椅子は何?」


「あ~それはね。もう一人・・・・のメンバーのものだよ」


「もう一人のメンバー……?」


 まったくの初耳だ。


 すると、レナがリサを連れてマッサージチェアにも似た大きなソファに座らせた。


 使い方を軽めに説明すると、リサはすぐに操作する。


 頭部の後ろから前にスライドするように現れたそれはリサの頭をすっぽり覆った。


 ソファの下部の横面から扉が開いて、中から――――配信用カメラが出てきた。いつも見慣れたドローンで非常に静かで高性能なカメラだ。


「配信用カメラ?」


「半分正解。ほら、内側見てみる?」


 リサの頭を覆っている物の中を覗くと、ドローンが映しているものが映し出されていた。


「なるほど……! 配信画面をこれで全部見れるのか。それにしても臨場感あるね」


「うん。まさにカメラが自分のように動くことができるんだ。この子、リサ二号って名前で呼んでいいかな?」


「ふふっ。私は賛成です~」


 リサが面白そうに笑って肯定した。


 それからリサ二号からみんなに、耳にセットするイヤホンを渡された。


 全て右耳に付けるタイプで外れないように耳全体でフィットさせる感じ。付けた感じはあまりしなくて、素材から作りまで高級品のように思える。電池も必要なく、近くにリサ二号がいれば、リサ二号と僕達の声が共有できるのが利点だ。


「これなら私達がダンジョンに入ってもリサちゃんと常に話せるでしょう!」


「そうだな……! リサもこれからよろしくな」


「うん! よろしくお願いします!」


 いつも一人でお留守番するリサとこうして一緒に出掛けるみたいですごく嬉しい。


 俺達は二日ぶりにダンジョンに向かった。




 ダンジョン一層に着くと、丁度配信用カメラも飛んできて、配信が始まった。リサ二号はあくまでリサ専用だ。


《視聴者数:3,872,391》


「同接三百万人……さすがユウマくんね」


 頭が真っ白になって何も考えられない。


『やっと配信か~! 待ってた!』


『若い剣神さんがいる! やっぱり英雄さんなのか?』


『英雄さん力を見せてくれよ~!』


『暗黒獣また出たら倒してくれよな!』


 読み切れないほどのコメントが流れる。有名配信者の配信はこんな感じになるって噂では聞いたことがあったけど、自分がこうなるとは思いもしなかった。


 昨日見たチャンネル登録者数が八桁とかになってたから……やっぱりこうなるのか。


「ユウマくん? 挨拶とかしないの?」


「そ、そうだった! み、みなさん、初めまして、ユウマといいます……」


『覇気0で草www』


『本当にあの英雄か?』


『あれか、剣を持つと凶暴化するタイプ』


 えっと……これはコメント一つ一つに……。


「ユウマくん? コメントは答えたいものだけでいいし、一つくらいに絞った方がやりやすいわよ? 私もユウマくんほどじゃないけど、コメントが多くて苦労したから」


「そっか。読みたいものだけ読んでも大丈夫なのか」


「うん。配信者だって人間だもの。こうしてリスナー達を楽しませてはいるけど、彼らの声に答えるのではなく、彼らがユウマくんの配信を楽しんでいるだけだから。だからユウマくんはユウマくんらしく、自分がやりたいことをすればいいと思う」


 レナ……頼れる先輩みたいで心強いっ!


「それなら――――今までの配信と変わったことがあります。今までの俺はずっと一人だったんですが、今日からこうしてパーティーを組むことになりました!」


『全員女で吹いたwww』


『英雄は何とかってやつだな~』


 …………そういや、メンバー全員が女性だった。


 いや、そんなつもりじゃなかったけど……。


「まず仲間の紹介をします。最初にサキ。付与術師で後方からサポートしてくれます」


『付与術師とかまた珍しいね~』


『クインテットかもしれん!』


『何かこの中で一番普通で逆に安心するな~』


「え、えっと、サキです……よろしくおねがいしますぅ…………はぁ……私、本当にこのパーティーに入ってやっていけるのかしら……」


「次はレナ。多くの方が知っていると思いますが、剣神です」


「これからユウマくんの相棒・・になったレナです~これからはこちらのチャンネルで活動しますのでよろしくお願いします~!」


 さすがに配信慣れしてるというか、普段はもう少し落ち着いていて、ちょっといたずらっぽい性格なのに、こうしてカメラを前にすると演者のようになる。それもまたレナの魅力の一つだと思う。


 ここは一つ、俺もそれを見習って、演者をやってみようと思う!


 次は冬ちゃん。


 彼女の前に跪いて、両手を伸ばして大げさに紹介する。


「こちらは冬様・・でございます!」


『冬様☆彡 冬様☆彡』


『めちゃ可愛いのに冬様なのじわるwww』


『レナちゃんも可愛いのに冬様可愛すぎないか!?』


『小動物みたいでめちゃかわ!?』


 とても受けがよかった。


「…………くくくっ……バレてしまっては仕方がない……私は冬様~! 崇めるがいい~!」


 やっぱり本人もノリノリなんだな。

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