第11話 君の名は……
俺の頼みで妹と同じ病室に入院することになった。
妹の病室は個室タイプだが、もう一人のベッドを設置できる広さがあり、カーテン一枚で仕切るくらいの近さで妹と同じ天井を眺めた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「体の痛みはだいぶ治った?」
「ああ。ダメージ自体は大したことなくて、医者先生曰く、ペイン属性とかいうものらしいよ」
「そっか……すごく痛そうにしてたからずっと心配しちゃった」
「心配かけてごめんな」
「ううん。私からお願いしたことだし……」
妹が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
俺がレナさんからアドバイスや双剣をもらったと伝えていて、妹はレナさんのファンになった。
週三回あるレナさんの配信は欠かさずに見ている。
そんな妹からレナさんが危険だという連絡。俺も彼女から受けた恩があって、気が付いたらダンジョンに向かっていた。
妹はそのことが気になってるみたいだ。
「リサ」
「うん?」
「教えてくれてありがとうな。リサが教えてくれなかったら、俺はずっと後悔することになったと思う。ちゃんとレナさんに恩返しが少しできて本当に嬉しいんだ」
「お兄ちゃん……」
「だからこれからも色々連絡くれると嬉しいな!」
「うん……!」
満面の笑みを浮かべた妹が天使のように可愛い。
その時、扉からノックの音が聞こえた。
「どうぞー」
ゆっくり扉が開くと、ひょっこりとレナさんの顔が扉の隙間から覗き込んだ。
「レナさん?」
「こんにちは~入ってもいい?」
「どうぞ」
扉が開いて、レナさんともう一人の女性も中に一緒に入ってきた。
「あ、昨日は急にすみませんでした!」
「いえっ! こ、こちらこそ……失礼してごめんなさい」
彼女は俺の初めてのパーティーメンバー……………………ああああ! 名前を聞くの忘れてたよ!
昨日聞こうとした瞬間に電話がきて、その足で彼女を置いてけぼりにして走り去ってしまった。
「昨日の活躍、配信で見ました。すごくかっこよかったです!」
「は、はいっ……あ、ありがとうございます……」
こう、可愛い女性に面と面と向かって「かっこよかった」と言われると、すごく恥ずかしい。顔が熱くなってるのを感じる。
「一階でユウマくんを探していたから連れてきたよ~」
「そうだったんだ。ありがとう。でもレナさんがどうして彼女を?」
「どうしてって、ユウマくんが金属スライムと戦った時、一緒に戦ってくれてたから顔が覚えていたよ?」
「えっ……?」
ちょっと待って。俺が金属スライムと戦っていたのは事実だし、彼女が手伝ってくれたのも事実だ。でもそれをどうしてレナさんが……? ん?
「ユウマくんの配信、いつも見てるよ?」
――いつも見てるよ?
――――いつも見てるよ?
――――――いつも見てるよ?
――――――――いつも見てるよ?
レナさんのとんでもない発言が、俺の耳の中に木霊する。
「「「ええええ!?」」」
まさかの発言に俺も妹も彼女も驚いた。
レナさんと言えば、同年代最強探索者だ。知らない人はいないほど有名な探索者なのに、そんな彼女が俺みたいな最低辺探索者の配信を……?
レナさんはニッコリと笑う。
「私はユウマくんの頑張りにいつも励まされているよ? ユウマくんは自分が
「いや……俺なんか……そんな大した……」
「だって、君って三年間一日も欠かす事なく毎日フルタイムで配信していたでしょう?」
「ええええ!?」
今度は彼女が驚きながら、信じられない表情で俺を見つめる。
「ああ。そんなことか」
「そんなことじゃないですよ!? ユウマさんって……私が思っていたよりもずっとすごい方だったんですね……」
「いやいやいやいや、配信くらい大したことないよ。いつもスライムばっかだったし」
「ふふっ。相手は確かに弱いけど、でも君は毎日配信を頑張ってたし、ちゃんと強くなってたからね。それに背中を押された人もたくさんいると思うよ」
レナさんの意外な言葉に、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。
「それより、ユウマくんがパーティーを組むって彼女から聞いたんだけど……?」
「そ、そうだね。連絡先を交換する前にレナさんの危機を知らされてしまったから」
「ん? どういうこと?」
レナさんに昨日の事情を簡単に説明した。
「リサちゃん! ありがとう!」
「わ、わあ!?」
レナさんがベッドに横たわる妹を抱きしめた。
「私、リサちゃんのおかげで生きているんだね! ありがとう~」
「い、いえ……私こそ、いつもレナさんの配信を見て、すごく楽しいです!」
「ユウマくんに病気の妹がいるって聞いたことあったけど、そうか、未だに外には出れないんだね?」
あれ? 彼女に病気の妹がいるって話したことあったっけ……?
「はい……病室内なら多少歩けるんですけど……」
「そっか。う~ん。ねえ、ユウマくん?」
「ん?」
「私達、パーティーを組まない?」
「えっ……!? い、いや、無理だよ!」
「…………そっか。私……荷物なんだ……?」
「違う! 全然違う! 断じて違う!」
自分でも驚くくらい必死に誤解だと伝える。
「俺みたいな最低辺探索者とレナさんではとても釣り合うとは思わないんだ」
「ふふっ。人類初暗黒獣を退けた英雄様が?」
「いやいや、あれはレナさんがいてくれたからだよ」
「ううん。ユウマくんがいてくれたからだよ?」
「いやいや……」
レナさんはただただ笑みを浮かべてくれた。
「え、えっと……俺なんかでよければ…………」
「やった~! よろしくね、ユウマくん。リサちゃん。あと――――えっと、ごめんなさい。名前をまだ聞いていなかったわ」
俺達の視線が彼女に向いた。
「あはは……はは…………はぁ…………私、こんなすごいパーティーに入って本当にいいのかしら…………」
彼女は大きく肩を落とした。
「ユウマくんが認めた付与術師なんだから、もっと胸を張っていいと思うわよ」
「そ、そう……ですかね?」
「うん! 金属スライムとの長時間戦闘でも集中を切らさずに頑張ってたし、それはユウマくんが一番知っていると思うから」
「はい。俺もそう思います。えっと……昨日は名前とか連絡先も聞けずじまいでしたけど、これからもよろしくお願いします」
彼女の不安そうな表情が段々と緩んだ。
「はい……よろしくお願いします! 私の名前は――――」
その時、扉にノックの音が響いた。
「ど、どうぞー!」
また微妙な空気となってしまった。
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