第10話 最低辺探索者vs暗黒獣

 巨大な魔物――――暗黒獣とレナさんの間に割り込んで、暗黒獣の攻撃を背中で受けた。


 普通ならその鋭い爪に体が貫通するだろう。


 でも、今日獲得した【金剛支配者】によって止められる・・・・・と分かった。


 現に、鋭い爪は俺の背中を貫通できず、ピッタリと止まっている。


 ただ……うん。ちょっと痛い。


「やあ、レナさん」


 目を瞑り、一筋の涙を流すレナさんを呼ぶと、驚いたように目を大きく見開いた。


 綺麗な金色に輝く瞳は、今までみたどんな宝石よりも美しく、神秘的だった。


「遅くなってごめん。動ける?」


「え……あ…………ど、どうして…………?」


「レナさんが困ってるって聞いて、走ってきたよ」


「あ……あぁ…………」


 彼女の目に大粒の涙が浮かび上がる。


「もう大丈夫だから。逃げれる? ゆっくりでいいから、ここは俺に任せて」


 彼女は……俺の恩人だ。いつか絶対に恩返しをしたいと思っていた。


 そんな大切な人・・・・を傷つけようとした暗黒獣を絶対許せない。


 心の中から湧き上がる怒りで、暗黒獣に跳び込んで、顔面を殴り付けた。


 ――――が、効いていないようで、暗黒獣の冷たい目が俺を見下ろす。


 次の瞬間、前足の横なぎが空中に浮いた俺を襲う。


 一瞬で視界が暗黒獣から洞窟の壁に切り替わった。


 壁に直撃したのはまったく痛くないが、あの殴りはそれなりに痛い。【金剛支配者】はどれくらい防御力が上がってるのかは分からないが、探索者はレベルが上昇したり、スキルを手に入れたり、装備を整えると、受けた攻撃に痛みを感じなくなるという。


 例えば、頑丈になった探索者は猛スピードで走って車が直撃しても怯みすらせず、無傷でいられるくらい。


「ユウマくん!?」


 レナさんが逃げることなく俺に向かって走ってくる。


 そんな彼女をまた踏み潰そうとする暗黒獣の動きが見えた。


 壁を両手で叩いて埋もれた体を外に出して、壁を蹴り飛ばして一気に加速して二人の間に割り込む。


 殴り付ける前足にしがみつく。痛みはあるが、耐えられないほどではないし、このまま攻撃され続けても倒すことはできない。


 そこで思い出したのが――――俺のスキル【追加固定ダメージ】だ。


 金属スライムを倒す前までは3だったものが、一気に上昇して20に上がっている。これが全ての攻撃に追加で20ダメージが追加されるってことだ。


 つまり――――俺の軽めのパンチ・・・・・・でも効くってことだ。


 しがみついたまま一生懸命に腕を殴り付けると、今度は長い尻尾が槍のように突いてくる。


 カーンと金属がぶつかる音が鳴り響く。俺の体は金剛のような金属みたいになっているみたい。


 着地してすぐに双剣を抜く。


 レナさんがくれた大事な双剣だ。


 暗黒獣と俺の乱闘が始まった。


 殴られ、斬り付け、それを何度も何度も繰り返す。


 その刹那――――一閃の剣戟が暗黒獣に当たる。


 俺の攻撃とは違い、硬い鱗をも切り裂き、暗黒獣の黒い血しぶきが舞う。


「ユウマくん! 私も戦う! でも前には出れないから、タイミング見て援護するね!」


「分かった!」


 まさかレナさんと共闘できるとは思わなかったが、今はそんなことを思ってる場合じゃない。


 周りでは他の探索者が暗黒獣以外の魔物を懸命に倒している。


 また暗黒獣の注意を引きながら固定ダメージを与え続けて、その隙にレナさんの斬撃を与える。


 勝てるかもしれない。そう思った時――――暗黒獣の全身から凄まじい黒いオーラが立ち上り、構えた。


「っ!? 突撃してくる!!」


 レナさんが横に跳ぶ気配を感じて、俺は双剣をしまってその場で構えた。


 次の瞬間、暗黒獣が凄まじい勢いで突撃してきた。


 それをその場で受け止める。


 全身に激痛が走る。


 自分でもこのままではまずいことが分かる。でもこのまま動くこともできない。


 と思った時、後ろからもう一つの凄まじいオーラを感じた。


 荒々しい荒波の中に一本の静かな揺らぎの一閃。


「――――天断絶斬」


 暗黒獣の左目に大きな傷が付けられる。


 ギャアアアアアアア!


 痛みからかその場で暴れ始める暗黒獣は、今までの威厳はなくなり、ただ痛みに走り回る。


 それに巻き込まれた大勢の魔物が粉砕されていく。


 しばらく暴れた暗黒獣によってスタンピードの魔物は全て潰され、ようやく痛みが引いた暗黒獣が佇んだまま、左目を失って残った血走る右目で俺達を睨みつけた。


 一瞬、俺達の間に静寂が訪れる。


 次の瞬間――――暗黒獣の足元に黒い靄が広がり、暗黒獣を包み込んだ。


 そして、暗黒獣は姿を消した。




「勝っ……た?」


 さすがに……全身が痛い。


 その場に倒れ込むように座ると、後ろからダダダッと走る音が聞こえてきて、俺の前に金色の美しいシルクのような髪が視界を埋めた。


 彼女はそのまま、俺の胸に飛びこんできた。


「レ、レナさん!?」


「ユウマくん……助けてくれて……本当にありがとう…………」


「ううん。こちらこそ。レナさんが色々教えてくれたから、俺は歩き進めることができたから。こちらこそありがとう。それと……その……久しぶり」


「うん……久しぶり」


 至近距離で笑う彼女は、まさに天使そのものだった。




『レナちゃんを助けてくれてありがとうおおお!』


『今日の戦い痺れたぜ! かっこよかったよ兄さん!』


『受け止めた時、本当にかっこよかったぞ!』


『暗黒獣を退けた英雄の誕生だあああああ』


 レナさんの後ろに白い文字が無数に流れて、俺達の無事と勝利を祝ってくれた。






――――【あとかき】――――

 当作品をここまで読んで頂きありがとうございます!

 これからユウマくんの大活躍をぜひ見届けてくださると嬉しいです!

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 よろしくお願いします!!!

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