第7話 勝利

 カーンと気持ちいい金属の音が響いて、金属スライムが半分こになった。


「はあはあ……」


 勝っ……た?


 地面に落ちている半分になった金属スライム。の片方が少しだけビクッと動いた。


「う、うああああああああ!」


 俺は――――全力で金属スライムを双剣で滅多打ちにした。



 ◆



《王級魔物【金剛】の討伐を確認。人類初討伐により、討伐者には【金剛支配者】を獲得しました。》


―――――――――――――――――――――

 【金剛支配者】

 絶対防御力超上昇

―――――――――――――――――――――


 頭の中に不思議な女性の声が響き渡る。


 これはレベルアップした時に流れる通称【天の声】だ。


 久しぶりの天の声にようやく落ちついた。


「あ、あの……? 倒せたんですか……?」


「ぬわあっ!?」


 急に耳元に女の人の声が聞こえてしまい、驚いてしまった。


 後ろを見たら、俺にずっと魔法をかけてくれた女性が近づいてきた。


「「あの!」」


 お互いに声が被る。


「「どうぞ!」」


 またもや、声が被る。


『夫婦漫才かよwww』


『タイミング抜群すぎだろwww』


 コメントに茶化されてしまった。


「え、えっと、その……助けてくださり、本当にありがとうございました!」


 彼女は腰を九十度曲げて頭を下げて感謝を口にする。


「いえ! こちらこそ本当に助かりました! 貴方の魔法がなければ、金属スライムの攻撃を避けることもできなかったと思います!」


「いえいえ! 私をかばって残ってくださったんですから! 私にできることはあれくらいしかなくて……ありがとうございます!」


「いえいえいえ!」


「いえいえいえいえ!」


『夫婦漫才やめろ!!』


 俺達の間を白い文字が通り過ぎる。


 お互いに目が合って、クスッと笑いがこぼれて、一緒に声を上げて笑った。




 しばらく笑った後、すでに消えた金属スライムの跡を見ながら、ようやく勝ったことに実感がわく。


 ちょうど配信時間も終わり、コメントも流れなくなり、一気に緊張が解けた。


 まだ歩けない彼女に肩を貸して、五層から外に出て、入口の傍の地面に座り込んだ。


「私達、生き残ったんですね」


「はい……また空が見れて本当によかった」


「えっと…………助けてくださったお礼をさせてくださいっ!」


「えっ!? そんな……俺が連れた魔物でしたから……」


「いえ、それでもです。探索者をしていれば、ああいうイレギュラーだってありますから、普通の探索者なら私を囮にして逃げたと思います」


「…………パーティーメンバーもそうでしたね……」


 彼女は悲しさを装って笑顔を浮かべた。


「その前に、妹に会いにいかないといけないので、そのあとでよければ」


「はいっ! そのあとでいいです!」


「ありがとうございます。病院までいきますけど……おんぶします」


「え、えっと……はいっ……よろしくお願いします……」


 顔をあからめた彼女をおんぶして歩き始めた。


「あのっ! 重くないですか……?」


「はい。羽根のように軽いです」


「は、羽根…………え、えっと……その…………汗の匂いとか……」


「大丈夫です。気になりませんから」


「は、はいっ……せめて補助魔法を掛けさせてください」


 そう話した彼女は俺にヘイストを掛けてくれた。


 体が軽くなる魔法で、金属スライム戦でもこれがなければ、絶対に負けていた。


 ダンジョンが現れた日、救急で運ばれた妹は、あれからずっと病院だ。


 俺は人生初めて、おんぶをする。背中から感じる彼女の肌の温もりに思わず顔が熱くなる。


 汗ばんでいるからか、背中にくっつく彼女の膨らみまでダイレクトに伝わってくる。


 …………はあ……嫌われないといいけどな。


 ダンジョンから徒歩一時間は離れているが、ヘイストのおかげで予定よりもずっと早く病院に着いた。


 彼女は一旦診察のために一階に降ろして、俺は妹の病室に向かった。


 ノックをして扉を開いて中に入る。


「お兄ちゃん!!」


 入ってすぐにベッドから両手を前に開いて、俺に向ける妹の姿。


 目元が真っ赤に染まってて、また大粒の涙を流す。


 急いで妹と抱きあった。


「お兄ちゃん……お兄ちゃん…………お兄ちゃん……」


「ああ。ちゃんと帰ってきたよ。心配かけてごめんな? それと応援してくれて本当にありがとう。リサが応援してくれたおかげで勝てたよ」


 病室に妹の泣き声が響き渡った。



 危険な目に遭うから探索者になることを反対されてきた。絶対に無理しない約束で探索者になったのに、それを破ってしまった。でも、俺が逃げたら彼女はきっと…………妹もそれを知っていたからか、まったく怒らなかった。


 ただただ、俺の無事を喜んでくれて、涙を流してくれた。



 ◆



 妹に事情を説明して、一階に戻ると、彼女が待合椅子でボーっとテレビを眺めていた。


「お待たせしました」


「あっ! おかえりなさい! 妹さんは大丈夫でしたか?」


「はは……ものすごく泣かせてしまいました」


「そう……ですよね。私も謝罪に……」


「いえ。妹はそんなことは思ってませんので……」


 彼女は苦笑いを浮かべた。


「捻挫のようで、しばらく安静にしなさいと言われてしまいました」


 彼女の足には痛々しい包帯が巻かれていた。


「今日はパーッと食べにいきましょう!」


「ええ」


 彼女とやってきたのは――――レナさんが奢ってくれたレストラン。


 あの時と同じハンバーグはあの時と同じくとても美味しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る