第11話 日常、そして高校生

 修学旅行、夏休み、文化祭と日常は過ぎ去っていく。

 意外なほど亮は新しいクラスに受け入れ、転校生だったことすら忘れられている。

 当たり前ながら、恵美との仲は隠せるわけもなく、クラスでは公認ということになっている。


 転校そうそう彼女がをつくりやがって、と、いうやっかみの声も聞こえるが、そこは無視している。

「仕方ないでしょ住谷くん恰好いいんだもの」

 恵美のその一言が、外野を沈黙させた。恵美がみんなのアイドルというほどの美少女ではなかったことも幸いしたのかもしれない。


「でも不思議だよね、住谷君もてるんだよ。だから、私は結構つらいかも」

 冗談だろうと思う、自分がそれほどもてているという思いはない。

「ちょっかいだしやすいのかも、飽きられやすいみたいだよ」

 結局、夏休みになっても、京都時代の彼女たちからは誰もデートの誘いもなかった。要はそういうことなのだろう。どうしても離れたくないというほどでもないらしい。


 おかげで夏休みは、恵美とびっちり一緒ということになった。もちろんやりまくっているわけではない。二人は受験生なのだ、亮はランクを落としていることもあって余裕があるが、恵美はそうはいかない。


 亮は、英語以外は普通以上にできる。英語は中一の時の教師が嫌いで一年さぼったのが響いている。それでも合格ラインは越えていることもあって、もっぱら恵美の専属家庭教師ということになっている。


 あと、最初にSEXをして以来、恵美は普通に毎月生理が来るようになった。要するにコンドームがなくなればできないのだ。小遣いと性欲をはかりにかけているふたりなのだった。


 クリスマスも、正月もそんなことをして過ごした。

 いったいいつ勉強したんだと、自分たちでも不思議だったけれど、二人とも志望校に受かった。


「恵美、制服可愛いな」

 伝統校の制服が恵美によく似合った。

「亮は、寮んところも入学式でしょ、今日」

「うん、うちは私服だから」

「ジーパンとトレーナーって」

 恵美はちょっとあきれ顔だ。


 航の高校は特に何の特徴もない普通の高校だ。

 服装自由、化粧も、パーマも何の制約もない。授業すらさぼっていても単位さえ取れればどうでもいいらしい。


 オリエンテーリングの一週間はあっという間に過ぎた。

「住谷だっけ、部活なんか入るの」

 隣の席の三木が尋ねてきた。

「なにも、考えてないけど」


「山登りしないか?」

「山登り? なんでまた」

「登山なんて中学じゃなかっただろ、高校らしいと思わないか」

 言われてみれば、確かにそうだ、山に登る以外何も想像がつかない。本当は高校三年間趣味の自転車で旅行でもしようかと思ったが、案外面白いかもしれない。


「今年は豊作だ、四人も入ってくれるとは」

 先輩は二年生が三人。女子が二人に男子が一人。三年生はもう引退しているらしいが男女各一人いるらしい。

 女子が二人もいるとは正直思わなかった。しかもなかなか可愛い。


 亮の同級生はというと女子が二人に男子が三人。

 そのうちの一人は、もともと三木と知り合いらしい。どうやら、二年生の柏木という男子の妹らしく、三木は入部してくれそうな人間を探していたみたいだ。



「そうなんだ、結局はめられたんだ」

 恵美とは、久しぶりに話している。伝統校らしく、なかなかいろいろあるらしい。

 亮の母親も、連日帰りが遅い。


「で、山岳部って何するの?」

「まあとにかくキスリングってザックに石詰めて階段の上り下り。雨が降ったらテントの張り方とか天気図の読み方とか」


「なんか大変そうだけど亮が好きそうかも」

「そうかもね」

「女の子は?」

「いるよ、でもみんな相手がいそうだな」

 高校で新しい女を見つけるつもりはなかった、今のところ恵美で足りている。

 あと、沙織からのお呼びが時々来る。


「恵美はなんか入ったの?」

「ESS」

「えっさっさ? なんで」

「英語すきだから、あと」

 言わなくてもわかった、佐紀が入っていたのだろう。


「そうだ、今日痴漢にあっちゃった」

「はあ、近鉄で?」

「環状線で、後ろからお尻触られた」

「どんな奴」

「うーん、サラリーマンかな」


「どこ触られたの」

「見る? ある?」

 用意はしてある、明日は沙織に会いに行くということもあって買ってあった。


今日の沙織は、チャックのミニスカートにTシャツだ。

「ここ? 触られたのは」

「違うそんなところさわられてないよ」

「じゃあ、こっちかな」


Tシャツの裾から手を入れた。

「違うもん」

「どこだろう、見せてくれなきゃわからない」

「馬鹿、スケベ」


「こんなこと、高校の誰かとしちゃうのかな」

 大阪の四月は暑い、シャワーを浴びた体にタオルを巻きつけた恵美は、布団に横たわっている亮のそばにちょこんと座っている。

「俺が? 大丈夫だよ」

「そうかなあ、ま、そん時はそん時だよね。取りあえず今は」

 そう言うと恵美は、もう一度亮に体を預けてきた。

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