第5話 元地球人には受け入れられない味なんですよ?

 転生時の記憶を整理したあと暫く僕は同じルーティーンで意味があるのか無いのか分からない生活を続けていた。

 朝起きて、起きると補充?されている果物を齧り、昼間…かどうかは分からないけれど腹時計に素直に従い、魚介類を摑み捕りし焼いて食べ、腹が満足したら寝る。

 朝夜を感じる事はほぼ無いが、唯一灯りとりになっている天井に空いた穴からの光がその残滓を洞窟に届けている。光が無くなれば外は夜なのであろう。

 この果物の不思議な籠が無ければ体に不調を起こしていたと容易に予想できる。

 湖底湖に潜ると時折怪しく光る大きな三つの目に出会う事もあるが、その獣は僕に襲い掛かってくることはなく、とても助かっている。幼児の身体の癖に僕はスムーズに泳ぐ事ができるのも不思議点だ。おそらく転生あるあるなのだろう。ご都合主義、とも言うのだろうか。

(お…エビみっけ)

 潜水し随分と息が続くもんだな、と驚いていた時が僕にもありました…。酸素ボンベを背負ったスキューバダイビングをしているようだとも思うが、前世の僕がスキューバダイビングをした記憶などミジンコも無いのだけれど。

 自分の手に余る位の大きさのエビが不用心にも自分の巣の岩場から体を出している。静かに静かに、を意識しつつ短い腕を伸ばし…GET。

 魚介類を捕る時にいつも思うのだけれど、この湖の魚介類は警戒心が弱いのだろうか?僕が手を伸ばす直前でさえも身動きすらせずにじっとしているので僕の漁獲率は100%である。今日もありがたく命を頂こう。


 木片に魚を刺していつものように熾火で焼いて食べる。

「…お腹はいっぱいになるけど…」

 身を残さず食べた後に残った骨と木片を焚火にくべると自然と出る溜息。

 湖故に得られる魚は淡泊な味で…味が欲しい…せめて塩が欲しい。

 贅沢だとは思うのだけれど折角食べるならやはり味が欲しいと思う。だからこそ甘味のある果物が涙が出るほど美味しい。そうだ。洞窟の中に何かハーブでもなんでも何かしら無いだろうか?鑑定を使えば分かるかな?

 最初は一日を生きる事に必死だったのだけれど、慣れてくると現状に不満が出る。

 特に食事に。

「鑑定、香辛料があればマッピング」

【要請により確認します …情報が不足しています。具体的に指定して下さい】

 香辛料、という範囲は広すぎか…じゃあ

「鑑定、塩、または岩塩があればマッピング」

【要請により確認します。………マッピング完了致しました】

「おお!」

 今までヒカリゴケの発生地としか意識していなかった洞窟の岩場のあちこちが薄っすらと水色に光っており、【岩塩】と日本語文字が表示として浮き出ている。

 小走りで壁に近寄るとゴツゴツとした岩場から少し質感の違う石が飛び出ている。

 手を伸ばし、それを取ろうと思うが全く動かない。素手では無理がある。試しに突き出た石のようなものに顔を近づけペロリと舐めてみる。

「しょっぱ!…でも甘い?上等の塩だ!」

 久しぶりの塩分そのものに感動すら覚える。

「どうにかして取れないかな…アナライズ」

 ボンッ、と目の前にもふもふの尻尾が現れる。尻尾が解けるとかわいい顔が隠れていてふわふわと宙に浮きながら小首を傾げている。

『ご主人、何でしょう?』

 僕は三つもあるふかふかの尻尾に顔を埋めながら呼び出した理由を告げた。

「岩に埋もれてる岩塩を取りたいんだけど、良い方法ないかな?素手では無理で」

『ご主人、あちらの龍の牙を使うと良いです。とても硬くて、刃こぼれもしない特級品のナイフになります』

 フリフリ、と尻尾で骨を指すライガの言葉を聞き、其方へ足を向ける。

巨大な骨を見上げて…見上げすぎて後ろに倒れそうな位大きい。

「龍…やっぱりドラゴンだったんだ」

 頭骨にくっついている牙に注意深く触れるとポロリ、と抜け落ちた。大きな牙は大きめのナイフにピッタリで根本は少し細くなり持ち手に丁度いい。牙の内側には細かくて鋭い歯がずらりと並んでいる。

 予備でもう1本抜き取ると、アナライザーのライガが爪も取っておけとの追加アドバイス。

「でもライガ、この爪、滅茶苦茶大きいんだけど。意外と重くはないんだけど…持ち歩きには邪魔になるんじゃないかな」

 僕の言葉にライガは首を右に少し傾ける。大きい猫目が滅茶苦茶かわいい!

『ご主人、お忘れですか、マジックボックスなのです』

「あ、そうだった。確か手に触れながら収納って思えばよかったんだっけ」

 牙の予備と巨大な爪を2本順番に触れて収納するとライガは不満そうな声を上げる。

『ご主人、爪と牙はもっと沢山あるのです!』

 確かに物凄い数の牙と爪があるね…でも僕には根こそぎ取るという選択は無かった。もとは生きてた魂のあった存在に感謝を感じながらペコリと頭を垂れる。

「ドラゴンさん、貴方の一部を頂きます。大切にしますからお赦し下さい」

 そう心から思うとぶわっ、と風が突如毎起こり、僕の前髪はさながら世紀末で暴れまくる無法者のように逆立った。それとともに凄く暖かい、安堵するような心地のよい真綿のようなものに一瞬包まれ、あまちの気持ちよさに僕は目を閉じた。

『…お前の糧になれるなら重畳。健やかに生きられよ、我はいつも見守っておる』

 脳内に穏やかな声が響き、そして消えた。

 のちに『古龍の加護』がステータスに追加されていたのには驚いたけれど。


『ご主人、どうしたのです?』

「いや?…あれ声聞こえなかった?」

『何も聞こえていないですよ~?』

 アナライザーライガには脳内に響いた声は聞こえていないようだ。

 僕はもう一度深々とドラゴンの遺骨に向って礼を行い、大切そうにナイフを握る手を強めた。


 カツン、コンッ、コロン

「うわぁ、なにこれ柔らかっ!」

 ギザギザの歯のある部分を岩塩と岩の間にあてて少し力をいれて押すとコロリ、と岩塩が地面に転がった。まるでプリンのようだな、と感じる。面白くなって相当な時間岩塩堀りに勤しむと地面が塩塗れになったのでせっせとマジックボックスに詰め込んだ。今はこの安全地帯?である洞窟で暮らしているけれど、ずっとここに居座る気持ちはさらさら無い。神様にもいろんな場所を見て歩けと言われたような気もするし、地球と同じならば岩塩は左程価値のある物ではないけれど、異世界ラノベでは

塩や胡椒は同量の金と交換されるくらい価値のある物と相場が決まっているので可能な限り塩は掘り尽くす勢いで掘り続けた。貴重な金策だ。


…結果、堀り尽くせない。何故ならば、僕の背が低いから。背の届く範囲の塩はあれから数か月掘り続けて無くなった。毎日毎日岩石堀り、そして腹ごしらえしているとステータスが大分伸びてきた。

《ステータス》

名称:なし  種族:不明 年齢:7か月

レベル:34 体力410 魔力∞

職業:なし 

スキル

鑑定Lv3 空間魔法Lv10(マジックボックス)∞威圧Lv10 力強化Lv4 転移Lv1

火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1 土魔法Lv1 雷魔法Lv1 聖魔法Lv10 暗黒魔法Lv10

使役魔法Lv10(ドラゴニュート)言語翻訳Lv10 暗視Lv1

アナライズLv2(魔獣ライガ)

加護

創世神の加護 古龍の加護


 果実や魚を食べて岩塩堀りをして寝る、そんな生活を続けていただけなのだけれど。魚を眺めながら微弱のスタンガンが遠隔で打てれば魚確保楽になるんじゃないかな、とか考えていたらポッ、と雷の弱いものが出て魚がプカプカと浮いてきた。僕はライトニングボルトという雷魔法を手に入れた。獲物を痺れさせる追加効果があるのでとても汎用性がありそうだ。しかしこの世界の魔法は想像しただけで使えるようになるのか?もしそうなら相当なヌルゲー仕様だな。

 浮かんできた魚を拾い、塩を振って主食と化していた魚の塩焼きを食べながら変わらず出入口に体を横たえる魔物を眺める。暗い場所で暮らしていた故か、僕は夜目が効くようになったみたいで今では洞窟の中は暗視カメラのようにはっきり周りの様子を視認できる。

 真っ黒な身体のドラゴン様は変わらず其処にいる。動いている所を見たことがない。もしかしたら屍なのか?とも思った事もあるが変わらずの姿に考えを改める。

 最初よりは体も少し大きくなった気がする。この世界は成長が早いのだろうか。

 最初よちよち歩きのような幼い二歳児のような体はいまや五歳児位に成長を遂げていた。身体が大きくなるにつれてチカラも増えてしっかりしてきたと思う。

 

 そろそろ洞窟の外に出てみたい


 食べ終わった串を焚火に投げ込んでゴロリと地面に寝転がる。ああベッドが恋しいな。慣れたとはいえど、ふかふかベッドに包まれて、ライガの尻尾を枕にして寝たい。ライガに頼んだら尻尾の一本を枕として貸してくれたのでそれからは毎日ふかふかもふもふ毛の枕に包まれて寝てる。獣臭さは一切無い。最高じゃないか。

「…そろそろ挑戦してみるか」

 寝ているであろうあのドラゴンの脇をすり抜けて外へ向かおう。

 そして僕はひと眠りしたあと未知なる世界を求める為栄えある一歩を踏み出し…


 深紅な切れ長の瞳孔からの視線を身体中に浴びて前日の自分の甘さを殴り倒したい程後悔して身を震わせた。


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