語りたくなる。

 電子的に生成した遺伝情報を研究する私。
 そこから「細胞グ」なるものを発明する。
 ある日、気がつくと密閉された培養液のなかにタマゴ状の物体があり、拡大すれば、どうやらそれは脳のニューロン構造に酷似していた――

 これはタマゴ状の合成生物なのだ。私は彼女をタマコちゃんと名付ける。
 一方、世界ではハッカーがハッキング用の大規模言語モデルを開発していた。それはあらゆるマシンをハッキングする悪である。
 インターネットそのものが使えなくなり、その手が各国の軍事システムにまで及ぼうとしていた。
 そのような世界情勢から活力を失っていた私をタマコちゃんが助けると言い出す。それにその大規模言語モデルと戦うとも。結果的に戦いによってタマコちゃんは死んでしまうが大規模言語モデルを倒すことができた。タマコちゃんの死に茫然としてしまう私。
 
 二代目のタマコちゃんを博士論文のために用意し復活したインターネットに繋ぐ。インターネットのなかにはフラグメントになっていた初代タマコちゃんの記憶が保存されており、それらが二代目タマコちゃんとの融合を果たした。私は胸がいっぱいになった。

 まず科学的なディテールが素晴らしいと思った。さらに、巨悪と戦うタマコちゃんが健気で良く、物語もタマコちゃんの親である私を中心に描いているところが感情移入を誘う。物語の構成もよく短いながら完成された作品であると思った。語りたくなる面白さだった。それに愛だね、愛。