第10話

 住んでた時には何も感じなったかけど、俺の家は結構裕福だったんじゃないかなぁって思う。


 他に比べて結構家でかかったし、欲しい物があればまぁまぁ買ってくれた。

 まぁそれが続いたのは、俺のスキルが発現するまでの話だ。


 前の家はスキルが発現するのは当たり前だって、父がよく言ってた。

 なんか血筋も結構関係しているらしく、スキルを持っている同士の子供は高確率でスキルが発現するらしいのだ。


 俺はその血筋、本来スキルが発現するだけで喜ばしい事であるが、一家が見ているのはその先のスキルの実用性だ。


 もうわかるだろ?俺のスキル【逃走】は雑魚スキルなわけよ、それが分かった父は俺に怒鳴った、なんでこんな力なんだってね。


 家を追い出されるのは、そこから大学生活に入る時だった。

 恐ろしいことに、俺のスキルが分かった瞬間にもすぐに家を追い出そうとしていたらしいのだが、流石に自立できる年齢までは責任をもって面倒を見るという結論に至ったらしい。


 生活費の送り込みなどはしてくれたが、それは最低限の生活費。

 遊びに行くとか、そう言ったものは自分で稼いで見せろ、が父のスタンスだ。


 だから、こうしてダンジョン配信をすることになったのだ。

 でも、一般人とそう変わらないスキルの俺が、一体どうやって配信で金を稼ぐことが出来るのか。


 ゲームの動画などを見て、俺に一番合った配信スタイルを見つけたのだ。

 それが今でも行っている『ダンジョン攻略RTA』だ。


 どんなゲームでも、RTAという分野にはニッチな層が一定数いる。

 だから俺の配信にも滅茶苦茶有名とはいかなくても、その層では人気になりたかった。


 これが俺の失敗だ。


「何故ここまで登録者が増えない!?」


 そもそも論だった。

 ダンジョン攻略RTAは層どころか、砂一粒もない未開拓のコンテンツだった。


「はぁ、こんなんで大丈夫かなぁ」


 最悪、ダンジョン内のアイテムを取って稼ぎを得られてはいるものの、それでRTA走者名乗れないだろう、何と言うかそこでプライドが邪魔をする。


「あぁあぁ、テステス、聞こえていますか」


 いつも通りダンジョン内で配信をつける。

 だが、その画面お先に人はいない。

 何度目かの虚無感に襲われたが、この時一筋の光が差す。


『毎回やってるなそれ、そろそろ別の挨拶でも考えたらどうだ?』


「……とうとう現れたか」


 一瞬心がはじけたが、すぐに調子を取り戻す。

 よくある話だ、全然コメントが憑かなくてたまにコメントを打つbotが現れる。

 全く分かっていないよな運営は、これは逆に本人のやる気を削ぐような行為だっていうのに。


 でも、最近のbotってこんなに長いコメントするのか、botにしては優秀だ。


『俺をよくわからんbotとか思ているようだな、ならbotには決して打てないコメントを俺が打ってやろう』


「ほぉ…面白い」


 この時点でbotではないってなんで気が付かないのか、俺は馬鹿だった。

 数刻の後、ついにそのコメントは流れる。


『○○こ!!!○○こ!!うりぃぃ頭に大根サラダを乗っけたい!あぁぁぁぁぁぁぁぁアンパン面さいこー!!!』


 流れたコメントを読むことが出来たのはそこまでだった、だが確認できるだけもあと三行ぐらいは続いていた気がする。

 流石に優秀な運営か、どんなに過疎っている配信のコメントも徹底的にチェックを施しているようだ。


 しかしそれ以前に…うん。


「確かに人が打ってるはそれは!wこの先どんな機会もお前に追いつけんわ!」


 あぁ面白い、久々に結構笑った気がする。


『だろ?機械なんぞに俺の思考が追い付けるわけがないんだ…それはお前もだがな』


 などど、一人の視聴者は言う。

 言いたいことは分かる、俺が思うに配信スタイルのことを言っているのだろうな。


「そうか?とてもいい配信スタイルだと思うんだが?」


『本当にそう思うのなら、自分についていない視聴者の数でもよく見たらどうだ?大体どの配信者もある程度の視聴者層を獲得している、よくは知らないが30人とかそのぐらいだろう、今一度見つめなおすんだな』


 ぐぅの音も出ない正論だ。

 確かにこの配信スタイルならば3人も付けばいい方、付かなければそこで諦めるのが一番安牌、さっさとバイトをするのがいい…だが。


「確かにあんたの言う通りだが、それでも俺はこの配信スタイルをやめない、俺にはこれしかない」


 少し宣戦布告気味に回答をしたからか、数分経ってもコメントが流れてこない。

 これは怒らせちゃったかな、少し情に熱くなってしまっていたか。

 配信者たるもの情はなくすべきだ、少しの反論で配信者の人気は大きく左右されるからな。


「さて、じゃあ今日も今日とて走るかってぇぇ…ん?」


『面白いな、お前』


 それからというもの、この人はずっと俺の配信を見に来てくれている。

 俺がコメントを返信できなくても、その人が見てくれている表示だけはしっかりとある。


 たまに休憩している時はしっかりと返信をしている、案外意会話は弾み、色々は話を聞かせてもらった。


 変な話だと思うが、この人と話していると同接はどうでも良く感じていた俺がいる。

 俺が求めていたのは同接じゃなかったかもしれない、それはないか。


 この人をこと俺は、最初の狂気的なコメント量を由来として「長文ニキ」と呼ぶことにした。

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