第8話

「ち、はぁぁ…」


 配信止めて、椅子に座っていた俺はベットに倒れ込んだ。

 あいつら、まるで他人事のように楽しみやがって。

 まぁ実際他人事なんだけどさ、それでももっと俺の気持ちをわかってくれる人がいてもいいんじゃないかな?


「……まじどうすっかなぁ」


 結局俺はあの見るに堪えない動画を最後まで見た。

 なんかもう、反応が出来なかった、本人の俺からすればめちゃくちゃにヤバイガチ恋に遭遇した気分だ。


「おかしいでしょ普通…」


 ただちょっと助けただけで惚れるとかどんだけ男慣れしてないんだ。

 もし俺がやばい人だったらどうするんだろうな、それでも愛するのかな。

 いや、そもそも魔法使いのスキルを保持するあの人は向かってくる敵は誰でも対処可能であろう。


「さすがに冗談だよな?」


 ダジョッターの動画を思い出した俺はベットの中で温まっているはずにも関わらず、体が震えている。

 神宮寺さんは絶対に捕まえると言っていた。

 理解があるならそれはモラル的に良くない事だと分かっているはずだ。


「……もう寝よ」


 今日は何も考えたくない。

 現在夜の八時、少し早いかもしれないが明日は大学もあるため、今日の俺とはここでおさらばだ。


 ────

 ──



 俺の通っている大学は、スキルを持つ者だけが入れる少々特殊な大学、俺の通っている大学はほかのところよりも設備が非常に良い。

 スキルを持っているだけでそこには入れる権利がある、しかしそれでは持っていない人が勝手に入ることがあるのではないか?

 そう思われるが、スキル保持者はそれを証明するために証明書を持っている。

 誰が違い誰がそうなのかは一撃でわかるらしい。


「で、なんで昨日は休んだんだ?」


 今、絶賛俺の取っている授業の先生に問い詰められているところだ。

 大学なんて基本、授業を休んでもそんなにどやされることはないのだが、この先生はそうではなくちゃんと何があったのかきちんと説明せねばならない。


「単純に寝てました…土曜に寝て、起きたら月曜日の昼方でした…嘘偽りない本当なんです」


「そうか…もういい、下がれ」


「はい…失礼します」


「おう、気を付けてな」


 先生が居た部屋の扉を閉めて外に出る。

 厳しいなぁあの先生は。


 まぁ厳しい先生だが、この先生はいい先生だ。

 これは客観的に見た評価で、生徒たちが思ういい先生は自分たちに都合がいい先生…批判を喰らっても都合が悪い先生を演じるのは相当大変だろうに。


「あ、やほやほー、今日はちゃんと来たんだね」


 肩を叩かれた後ろ側を見ると、そこには春香が居た。

 春香とは基本取っている授業は同じ、そのよしみで仲良くなったわけだ。


「……まぁな」


「なんか元気ないね、どしたん話聞こか!」


「そのテンションで言う言葉じゃないだろ…まぁ色々あったんだよ、早く行くぞ、こんな所で立ち往生してても時間がなくなるだけだ」


「そうねぇ…聞きたくないけどさ、やっぱり走者のこと?」


 春香の顔が急に気持ち悪くなる。


「……あぁ、まぁありゃすごかったな」


「そうだったでしょ…なんか私たちが介入する余地がなかった動画だったし」


「だな、もう一生見たくない」


 永久削除ものだ、しかし奴は捕まえると言っても、どうやって捕まえるんだ?

 俺の顔を知っているのも知れないが、名前は、住所は?聞かれれば答えられないものばかりだ。


 一体どうやって見つけるんだろうな、絶対無理だろと笑ってしまう。


「ん、ねぇなんかやってない?」


春香の指した方向を見ると、何やらた

大学の入り口にたくさんの人が集まっていた。


「だな、何かの行事か?」


「そんな話は聞いてないけど」


それはお前がぼっちだからだ。

なんて言いたいが、すぐに捻られるだろうな。


「ちょっとだけ見ていかない?」


「……少しだけだ」


時間もある、多少見るだけなら別に問題ないはずだ。

人が集まってる所に近づけば、いやでも人の話し声が聞こえてくる。


「おいおいマジかよ、でも何でこんなところにいるんだ?」


誰か有名人でもきているのだろうか。


「有名人でもきてるのかな?」


春香が言う。


「こんな所に何故有名人が来るんだよってツッコミたいな」


集団に近づくにつれて、人と人との隙間の中から取り囲まれた正体がちらちらと見える。


四人の黒い服着た屈強な男…ボディーガードか?身長は全員185以上はありそうな感じだ。


さらに近づくと、メチャクチャに価値がありそうな車。

そしてその中に一人窓を開けて座っている黒髪の女性。


「お嬢様、この中に目的の男はいないかと」


ボディガードがそう言うと、車に乗っている女性は落胆したような声を出した。


「……そう」


「え!?今の声って、神宮寺さん!?」


春香が声を上げた瞬間、多くの視線がこちらの方に集まる。


そして、目が合った。

一瞬だけ、人混みの中の小さな隙間であったが、確かに認識できた。


「……降ろして」


「はい、お嬢様」


車を降りた神宮寺さんの周りに壁があるかのように人混みから道が開かれ始める。


スゥゥゥゥ…逃げよう。


「よし、じゃあ春香、早く教室に行くか」


「え?嫌なんだけど、だって神宮寺さんを生で見れるなんて!!」


「生きててよかった」と、春香は手を合わせて顔を上に向ける。


「じゃあ俺は先行ってるからさ、じゃあまた後で」


「そこの男、止まりなさい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る