第3話


 灼熱の大地を決められたルート通りに駆けるが、さっきまでずっと走っていた弊害が今ここで来た。


 ドラゴンと少女まで約70m……


「……クッ!」


 走っている時は何も感じないが、俺は一度止まった、体内のアドレナリンが生産をやめて、俺の体に負荷がかかり始める。


 しかしそれでも、例え足が細切れになったとしても、俺は全力で走った。

 全てはあの人を助けるために……なんの関係のない人を助けるためにここまでするのか?


「だぁくっそ!」


 こんな事になるんだったら、もう俺だけ逃げればよかったなぁ!!


「………!」


 後30mを切ったところで、ついに動いたかと思うとドラゴンが足をあげた。

 次に起こる事は容易に想像できる。


 このままの速度じゃ、絶対に届かない。

 もっと早くだ…まだ足りない!


「スキル『逃走』逃げ足!!」


 スキルを使って俺はさらに自分のスピードを速め、救出に向かう…これなら!!


「グアァァ!!」


 ドラゴンは雄叫びを上げながら、女性がいた所を勢いよく踏み潰した。

 周りには小さな火の粉と共に煙が立ち込める。


 …間に合わなかった。


「フゥ!!」


 煙を切り裂き、俺は女性を抱き抱える形で持って安全そうな上の階まで逃げる。


 俺以外なら、絶対に間に合っていなかった。

 いや、もしかしたら俺以外にも間に合ってたかもしれないけど…いやどうだっていい、そんな事よりもこの人気を失ってる、戦いで疲れたか?それとも生きることの諦めて寝たか?


「ガァァァ!!」


「いや無理無理無理!!来るんじゃねぇ!」


 俺の存在に気がついたドラゴンがとてつもないスピードでこちらに向かってくる…って思ってたけど。


「なんだお前!そんな立派な翼持ってその速度しか出ねぇのか!拍子抜けだな!」


 案外、俺の走っているスピードよりだいぶ遅い、これなら余裕で一つ上の階まで行け──


「……え?」


 俺の頬を何かが掠め、地面に落ちる。

 その落下地点から、ゆらゆらと火が立ち込める……あぁうん、なるほど。


 遠距離技持ってるタイプかこいつゥゥゥ!!


「はぁ!はぁ!」


 まっずい、マジで限界が近い。

 スキルでの強制的な速度の底上げ、今まで非常事態ぐらいしか使ってこなかったがこんなにきついのか。


 それにあの飛来物が、今になってもたくさん飛んでくる、近づいてもゲームオーバー、当たってもゲームオーバー。


「かっはぁ!!はぁ!はぁ!」


 思考が止まり、俺が吐いた息と吸った息から出る声しか聞こえない。


 俺できることは一つ、絶対に当たらないでくださいとドラゴンと神に祈るだけ!!


「アァァァッ!!」


 あと数十メートル!!階層ゲートが近づき始めた、最後!後少しだ!マジで当たるな飛来物!


「グアァァァァ!!」


「ッツ!!」


 俺たちは階層ゲートの中に入ってなんとか上の階層まで上がってきた瞬間、俺は足を崩した。

 疲労もあったが、何より足がとてつもなく痛い、奴の飛来物がギリギリ足を掠めていた。


 最後の最後、あのやろうとんでもないもん渡してきやがって、絶対いつか殴ってやる。


「…ん」


「お?」


 目の前の女性が目を覚ました事で、懸念していた死の可能性がなくなりほっとした。


「……えっと、大丈夫ですか?」


 あぁまっずい、俺…誰かと二人で面と向かって話すの、超苦手だったんだわ。


 しかもこの人、めちゃくちゃ美人な人だし、さらに緊張してくる、うまく喋れてるだろうか。


「……此処は?」


 ん゛…いい声してるな、なんて言ったらいいかな、落ち着いた感じのクール声って言うのかな、めっちゃ好みだ。


 いや待て、こんな事言ってたら俺の普段のコメ欄と一緒だ、煩悩は捨て去るに限る。


「えっと、ここは貴方がいたダンジョンの上の方の階層です」


「……ありがとうございます」


 おっと、まだ何も言っていなんだがなぁ、大体のことの顛末を察した感じか。


「大丈夫です、困っている人を助けるのは、当然でしょう?」


 あぁめっちゃ嘘ついた。

 ごめんなさい、あなたの事めちゃくちゃ見捨てようとしてましたごめんなさい。


「……何か、お礼をさせて欲しい」


「……いやいや、お礼なんていいですよ、当たり前の事をしただけですから」


 本当は早く帰って寝たい、めちゃくちゃに熟睡を決めたい。

 でもこの感じだと、何か言わないと終わらなさそうだし、仕方がないか。


「じゃあ、俺の注意を受け取ってください。

『危険な橋は渡らず、危ないと思ったら速攻で逃げる、配信より命優先』わかったなら俺は帰りますね」


 俺は自分のポケットにある転移石の片割れを取り出して、それを強く握る。


「それだけ…ですか?」


「別にやって欲しいこととかないし、それだけでいいかな」


 それより、頭の中にはさっさと帰りたいの物質が大半を占めてる、もう床でも寝れる。


「…名前は、なんて言うんですか?」


「……えぇっと」


 名前かぁ…流石に本名はまずいだろ?いやでも初対面なら本名?どうするべきか…そうだ!


「よく友達からは『走者』なんて呼ばれています…愛称みたいなやつです」


「……走者さんですね、本当にありがとうございます」


「そうですか、ではお気をつけて帰ってください」


 転移石を握ってから20秒、俺の体は大きな光に包まれ、次に瞬間には自宅のベット前だ。


「……」


 何も言葉を発さず、俺は自分のベットにダイブしてそこから気を失った。


───



「…うっくぅ」


翌日、俺は自身の体に起きてる激しい痛みが目覚ましのアラーム代わりとなり、目を覚ます。


昨日は…あぁそうか、おそらくスキルの使いすぎか…はぁ納得の納得だわそれは、昨日は死線をを潜ってきたんだったわ。


えぇっと、今は何時かな…て」


間違いじゃなければ、俺の近くにある時計は15時のところに短針が合わさっていた。

昨日はあの後以降、時計を見ていないから、何時に寝たのかは知らない。


それでも寝すぎだ感覚はある。

寝すぎは帰って頭痛を引き起こすんじゃなかったのか?それとも疲れすぎてこんぐらいの時間が最適だったか。


「スマホ…スマホ…あった」


昨日は何にもしないで帰ってきてからそのまま寝たんだっけか、そりゃ配信用のスマホ台が付いたままの訳だ。


今日は昨日に引き続いて休み、もう今日はずっとここでネットサーフィンやら動画やらでもしながら過ごそう。


スマホを開き、日々大量の呟きや情報が溢れているダジョッターを開くと、当たり障りのない鼻で笑えるような呟きが──


「……へ?」


ははは、俺は夢でも見てるのだろうか…もしくは俺のダジョッターが壊れたか。


だって、そう思うしかないだろ?

俺はチャンネル登録者たったの数十人前後の底辺配信者の小走 走だ。


「ダジョッタートレンド一位…『走者』?」


一体何があって、底辺の俺の配信の中でしか言われない愛称がダジョッターのトレンド一位なんだ。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?」
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る