第26話 王家の改善! 裏ミッション始動

 ひとしきり感心して納得したジュリアンは、お腹も満たされて気が緩んだのでしょう。


「それとね、これは別にどうでもいいんだけど、面白い情報があるんだ」


 皆さん食い気味でジュリアンの顔を見ました。


「ほら、美人のゲイに追いかけられて逃げ回ってたランドルさん、どうも堕ちたみたいなんだ。最近よく一緒にランチしているし、一緒に通勤してる。もしかしたら同棲してるのかな? 妹さんも隣国に行ったから問題ないもんね?」


 全員が涙を流しながら爆笑しています。

 確かに彼はルイス様を裏切った許せない奴ですが、根は良い奴だと思います。

 ルイス様の後釜を探すのも本気で頑張っていましたし。

 まあ、そのお陰で新しい恋を手に入れた?というのでしたら……ラッキー?


「ねえジュリアン、どっちが攻めでどっちが受けなの?」


「ね……姉さん」


 ジュリアンは何も言わずにさっさと帰っていきました。

 帰るなら答えを教えてからにしてほしいものです。

 久々に賭けを持ちかけましたが、誰も乗ってきませんでした……ちっ!


 翌朝からマリーさんは薬研でゴリゴリと緑色の物をたくさん作っています。

 最後に黒い粉を入れると無色になるのです!

 私とノベックさんは庭を駆け回って指定された草や木の皮を集める役でした。

 久しぶりの運動は気持ちがいいです!

 少しはしゃいでコケてしまい、擦りむいた膝にマリーさんが軟膏を塗ってくれました。

 お仕事の手を止めてしまってごめんなさい。


 マリーさんのお薬ができた端から、リリさんが持っていきます。

 これがリリさんの言う『仕込み』ってやつですね?

『仕込み』についても専門学校で習うのでしょうか。

 お昼過ぎに帰ってきたリリさんに聞いてみました。


「リリさん、あのお薬ってそんなにたくさん必要なのですか?」


「ターゲットが多いですからね。やつらはバカですから、せっかく用意した水を無駄にする可能性も考慮しています。よろけてコップを倒すとか?」


「なるほど。よくわかりました。つまらないことを聞いてしまいました。ごめんなさい」


「いいえ? いつでもどうぞ」


 リリさんは強いだけでなく、とても優しいです。

 そんなことを考えていたら、サボっていると思われたのでしょうか。

 ノベックさんが窓の外で手招きしています。

 日よけのお帽子をかぶって、今度は走らないでお庭に向かいました。


 あれ? 渡されたメモには、朝の指示とは違う植物が書かれていました。

 間違っていたらみんなの努力が無駄になりますから、マリーさんに確認してみましょう。


「ええ、それで間違いないですよ」


「材料が変わったのですか?」


「いいえ、作る薬が違うのです。こちらは症状を少し緩和するお薬ですね。分かり易く言うと飴と鞭の飴の方です。血管はもともと脆いですから、鞭ばかりくれてやるとすぐへこたれるんですよ。薬は使い方次第で毒にもなりますから。奥様は用法容量を必ず守って、正しく服用してくださいね」


「なるほど。よくわかりました。つまらないことを聞いてしまいました。ごめんなさい」


「いいえ? いつでもどうぞ」


 マリーさんも賢いだけでなく、とても優しいです。

 あっという間に夕食の時間になりました。

 今夜もリリさんはいません。

 1度同行したいと言ったら秒で断られました。

 来週からはランディさんもいなくなります。

 寂しいです。


 しばらく食べることができなくなるランディさんのお料理を、感謝しながら味わっているうちに、ランディさんが王宮の別邸に行く日になりました。

 なんでも料理人というのは包丁にこだわりがあるそうで、革製の専用ホルダーに収納されてくるくると巻かれた物を手に持っておられます。


「これは俺の命だからね。人任せにはできないんだ」


 なるほど、これが一流の矜持ですね? 勉強になります。

 私も今度から刺繡針にはこだわりを持ちましょう。

 刺繡針を収納する革製のホルダーも用意せねば!


「元気で頑張ってくださいね」


「ああ、奥様も負けるなよ? 準備は進んでいるんだろ?」


「ええ、アレンさんがノリノリで動いて下さっています」


「あいつに任せておけば間違いはないよ。俺に連絡があるときはリリに渡してくれ。俺の方もそうするから」


「わかりました」


「当分は外食か買い食いだろうが、栄養バランスを考えて食べるんだぞ? 好き嫌いもダメだぞ? 寝る前にはあまり食べるなよ?」


 ランディさん、私はもう大人ですからね!

 そう文句を言おうとしたら、頭を撫でられました。

 かなり嬉しいです。


「じゃあな、ミッションコンプリートまで頑張ろう」


「はい!」


 私とアレンさん、ノベックさんとマリーさんという後方支援部隊でランディさんを乗せた馬車を見送りました。

 そうそう、裏ミッションの作戦名が決まったのです。

 その名も『持って生まれたその美貌! 使わにゃ損だよ減るもんじゃなし作戦』です。

 今回は誰にも何も言いませんでした。

 やっと私のネーミングセンスを認めて貰えたようです。

 でもルイス様には作戦名を秘密にしなさいってランディさんに言われました。

 謎です。


「さあ、奥様。今日は面接ですよ。基準がルイス様ですから厳しいとは思いますが、妥協せずに頑張りましょうね」


「はい、頑張ります。それはそうと面接会場はどこですか?」


「王宮の裏側の繫華街ですよ。王宮から秘密の抜け道があって通いやすいと好評な場所です。まあ秘密といってもみんなが知ってる抜け道ですから、一般道と変わりません」


「もう契約したのですか?」


「ええ、先週契約を済ませました。内装工事も進んでいます」


「楽しみです」


 私たちは手早く準備をしてノベックさんの操る馬車で、面接会場に向かいました。

 マリーさんはお薬を作るためにお留守番です。

 お~! 絨毯が真っ赤なのですね。そしてソファーは背もたれが異常に高い? なにやら秘密っぽい作りでイカガワシイ匂いがプンプンです。


「どうですか?」


「どうと言われても、私はご存じのようにこういった経験が皆無ですので」


「内装はリリが全面監修しています」


「でしたら何の問題もないですよ。私は面接の方で頑張ります」


「わかりました。では3人ずつ呼びますね」


 私達は1度座ると1人では立てないほどのふかふかソファーに座って? いやいや、埋まって? 応募者を面接しました。

 今日の面接対象はランドルさんとジュリアンが探してきた候補者です。

 皆さん学生かと思いきや、既にお仕事をしている方もおられます。

 アレンさんが私の横で、あらかじめ決めていた質問をしていきました。

 その間に私がお顔や仕草を観察して、ルイス様と比較して採点していくのです。

 判断基準は『ルイス様が80点ならこの人は何点か』です。

 今のところ50点を超える人はいませんね。


「先ほどのグループで最後でした。お疲れさまでした」


「明日は平民ブロックでしたよね?」


「ええ、マリーが言うには期待できるそうです」


 終わってみるとかなり疲れていたので、チキンサンドを買ってさっさと帰りました。

 マリーさんもきっとお腹を空かせています。

 お腹が空きすぎて薬草を食べていなければいいのですが、少し不安です。


 翌日も昼過ぎから昨日と同じ面接作業でした。

 マリーさんの言う通り、昨日より収穫があったと思うのですが、正直に言うとやっぱりルイス様が一番でした。

 まあ当たり前ですよね。


 何をしているのかって?

 実はイケメンばかりを集めた女性専用クラブを開店しようとしているのです。

 そうです! これが裏ミッションの目玉なのです! ふふふ。

 店名はもう決めています。

『アリジゴク』です! 良い名前だと思いませんか?

 私が考えたのです!

 みんなからは相変わらずネーミングセンスがないとブーイングを喰らいましたが、奥様権限でゴリ押ししました。

 ジュリアンには『店名だけで狙いが読める』と笑われましたが、ここは姉の威厳で黙らせました。


 後は得点の高かった方達を素敵な紳士に育成するだけです。

 そこはアレンさんとリリさんが担当します。

 リリさんに忙しいでしょうって聞きましたが、ほぼ終わったから大丈夫とのことでした。

 そしてリリさんの読み通り、翌朝には前王危篤の知らせが駆け巡りました。


「思ったより勝負が早かったですね」


「ええ、私たちが手を出さなくても年内には逝ってたかもしれません。でも今回はまだ死なれては困るので、早めに対処して良かったです」


 まるで迷子になっていた隣の犬が、無事に帰ってきてよかったくらいのテンションです。

 暗部の仕事って私が考えていたより楽しいのかもしれません。

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