悲しき戦い

「何のために万休電鉄の乗客や駅員を襲っているんだ」

「言えんな。そんなことより、お前の方も名乗ったらどうだ」

「いいだろう。俺は正義の味方にゅうめんマンだ」

「にゅうめんか……」

「どうかしたのか」

「いいや。ただ、にゅうめんは実にうまい食べ物だよなあと思って。みんな、うどんとかラーメンだけでなくて、にゅうめんももっと食べればいいと思うよ」


これを聞くと、にゅうめんマンはちょっとしんみりした。

「……敵同士でなければ、お前とは良い友になれただろうに。こうして戦わなければならないのが残念だよ」

「時に気の進まない相手とも戦わねばならないのは俺たちの宿命。この業界の辛いところだ」


そして、2人してちょっとしんみりした後で、烏天狗が最初の攻撃をしかけた。

辛気臭しんきくさいのはここまでにしよう。ゆくぞ!」

 天狗は疾風のように鋭いパンチを放った。にゅうめんマンはとっさに腕を上げてブロックしたが、普通の人間では相手にならないのも納得だ。


「今度はこっちからいくぞ」

 にゅうめんマンは豪腕をふるって稲妻のような打撃を繰り出した。天狗も素早く腕を上げてこれを手の平で受けとめた。にゅうめんマンの激しい一撃から生じる鋭い音が、2人の戦う地下通路に反響した。


「思ったよりやるじゃないか」

 にやりと笑って、天狗が言った。

「お前もな」

「見どころのあるパンチに免じて、今日はこのくらいにしておいてやる。あばよ」

 天狗は、地上へ通じる階段の方へ歩き始めた。


「待たんかい!」

 にゅうめんマンは呼び止めた。


「これから熱い戦いが始まるところだっただろ。なんで帰るんだよ」

「だって、お前思ったより強いし……」

「そんな理由で帰ってもらっちゃ困る。俺は万休電鉄のためにお前をやっつけなくちゃならないんだ」

「お前はそうかもしらんけど、俺はお前と戦うことに何の利益もないしな」

「ごちゃごちゃ言うんじゃない。逃げられると思うな!」


にゅうめんマンは天狗に飛びかかった。しかし天狗はひらりとかわした。

「せっかく俺が引き上げようとしているのに、どうしても戦うというのか。後悔するなよ!」


天狗は地下通路の天井近くまで跳び上がり、地下足袋をはいた足で流れるような蹴りを放った。にゅうめんマンは後ろに跳びのいて攻撃をよけた。

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