怪異ハココニ在リ


 無粋な声に、僕は皮肉をもって応じた。「君から探していただけるとは恐縮だね。それで、いかなご用件ですかな」


「どんな用、だと? お前寝ぼけてるのか? 捜査の進捗を聞きにきてやったに決まってるじゃねぇか。ところが部室にもお前のクラスにも、探しても誰もいない。そしたらお前が女と空き教室に入ったって噂を聞いてな。で、来てみればずいぶん楽しい話を俺抜きでしてるじゃねぇか。おい、水臭いぞ。犯人がわかった時点で、なんですぐに連絡してくれなかったんだ?」


 彼は怒りと勝ち誇ったような色とがないまぜになった、奇妙な表情を浮かべていた。

 須羽さんが、非難の目を向けてくる。「香宮君、やっぱりこいつに言われて動いてたんだ」


 僕は肩をすくめた。「許してくれとは言えないな。ただ、一つ言い訳をさせてくれ。この探偵活動が部活の一環である以上、僕らは依頼を受けたら断れないんだ」


 そう説明しながら、一様に顔を強張らせている女性陣と吉川君との間に、そっと割って入る。


「それにしても、盗み聞きとはあまり紳士的じゃないね。君、どこから聞いていたんだい?」


「お前がこの──」彼は太い指で、ぐいと先輩を指差した。「──ペテン師の正体を暴いたあたりからな。いやいやまったく恐れ入ったぜ。教育実習生サマともあろうものが生徒に化けて、その上私欲で学校の備品が壊れるような細工をするなんてなぁ」


 那月さんはこの期に及んでも、なお泰然としていた。「そうね。我ながら何をやってんだと思うわ」


 認めてどうする。

 心の中でツッコミを入れつつ、僕は言った。「さぁ、それならつまり、君は先輩の動機を聞いたわけだ。ならもう十分だろう? 過去のことはみんな水に流そうじゃないか。それともあの話を聞いても、君は何も感じなかったのか?」


 彼にも伝わったはずだ。僕ら全員の安全を守ろうとした先輩の配慮が、悩める後輩の支えになりたいという真心が。


 だが残念ながら、吉川君は嗜虐的な喜色をより濃くした。「何も感じなかったか、だと? あーあー、いやというほど感じましたよ、自分のバカさ加減ってやつをな。一度は危うく騙されかけたけど、もうそうはいかねぇぞ。どうせお前もグルなんだろ」


「違う」小さな、けれどきっぱりとした声で言い返したのは三神さんだ。「香宮君もゆりちゃんも関係ない。首謀者は私。私がナツ姉さんを巻き込んで、これを仕組んだの」


「はっ、お前らの言うことは信用できねぇ」

 彼はそう言うと、女子たちに詰め寄った。止めようとした僕は乱暴に押しのけられて、たたらを踏んだ。


 教室の出入り口脇、廊下側最後列の椅子が、この時小さく音を立てて動いた。その隣の机も。けれども色をなす吉川君は気づかない。


「おい須羽、約束通り土下座しろ。それから先生よう、このことはきっちりあんたの指導教官に報告してやるからな。不真面目な実習生のくだらない感傷のせいで、巻き添えを食らいましたって。こんなしょうもない、こんな──」


 こんな、の後に彼が何と続けるつもりだったのか、僕たちはわからずじまいだった。というのもなおも罵り続けようとする彼の顔めがけて、いきなり丸められた紙屑が飛んできたからだ。

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