幸せとは暖かな仲間


「ゆりちゃんをあまり悪く思わないでね」


 ひと足先にどこかへ向かった須羽さんを見送ってから、三神さんはこそっと言った。「あの人、あんな言い方しかできないけど、悪気はないの。本当は優しくて正直でいい人だから」


「悪くなんて思わないよ」僕は言った。あながち方便でもなかった。確かに積極的に友達になりたい人ではないけれど、だからと言ってはっきり嫌いだと言い切るには、僕はあの人のことをあまりに知らなすぎる。

 よく知りもしない人を、乏しい材料で嫌いだと断言する。それはジェントルマンのすることではない。香宮修之介という人間のモットーは、某プロ球団のチーム憲章ではないが「紳士たれ」なのだ。誰かに紳士的だなんて評されたことは、悲しいかな一度もないけれど。


「三神さんと須羽さんって、幼なじみなの?」なんの気無しに訊いてみる。


 三神さんは首を横に振った。「ううん。……なんで?」


「いや、二人はとっても仲が良さそうだから。もしかしてそうなのかなって」


「知り合ったのは高一の一学期で、その頃私はまだ写真部にしか入ってなかったの。きっかけはうちの部室で起こった、ちょっとした幽霊騒ぎ。オカ研に意見を聞きに行った時に、あの子ずいぶん親身になって話を聞いてくれたんだ。それ以来ずっと仲良くしてくれてるの」


「それで三神さんも、オカ研との兼部をすることにしたわけだ。本当に好きなんだね、須羽さんのことが」


「うん、大好き。私にとって、あの子は一番の親友なの。……でも、考えてみれば変な話だよね。親友ができたきっかけが、部活中の怖い事件だなんて」

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