バナナの皮で死んだ俺の、異世界フードデリバリー奮闘記

月坂いぶ

バナナを愛し、バナナに裏切られた男

 俺はバナナが好きだ。朝食にも昼食にも夜食にも、バナナは欠かせない。バナナは栄養もあって美味しいし、何より安い。俺は貧乏な大学生だから、バナナは救世主みたいなものだった。


 だが、そのバナナが俺を裏切った。


 ある日、俺はいつものようにバナナを食べていた。皮をゴミ箱に捨てようとしたとき、足元にバナナの皮があるのに気づいた。俺は慌てて足を止めようとしたが、もう遅かった。バランスを崩した俺は後ろに倒れ込み、頭を壁にぶつけた。その衝撃で意識が遠のいていくのを感じた。


 「くそっ、こんなところで死ぬなんて……」


 俺は悔しさと恐怖で目を閉じた。これで終わりかと思った。


 しかし、次に目を開けたとき、俺は見知らぬ場所にいた。


 「えっ?」


 俺は目を疑った。周りには草木や花が生い茂り、空には虹色の光が差していた。空気は清々しく、鳥や虫の声が聞こえてきた。まるで絵本の中の世界だった。


 「ここはどこだ?」


 俺は立ち上がろうとしたが、体が思うように動かなかった。頭もぼんやりしていて、何が起こっているのか分からなかった。


 そんなとき、俺の前に小さな妖精が現れた。


 「異世界へようこそ!」


 妖精はニコニコしながら言った。


 「異世界?」

 

 俺は呆然とした。異世界って、あのライトノベルやアニメでよく出てくるやつか?まさか自分がそんなところに来るなんて……


 「ええ、そうです。あなたは死んでしまったので、神様がこの世界に転生させてくれました」


 妖精はさらりと言った。


 「死んだ?」


 俺は思い出した。そうだ、バナナの皮で滑って頭を打ったんだ。それで死んだのか……。


 「それで、この世界では何をすればいいんだ?」


 俺は聞いた。せっかく異世界に来たんだから、何か面白いことがあるといいなと思った。


 「あなたには特別な使命があります」


 妖精は神秘的な笑みを浮かべた。


 「使命?」


 俺は興味を持った。特別な使命というと、勇者として魔王を倒すとか、王子様として王国を救うとか、そんな感じか?


 「あなたはこの世界のフードデリバリーのお仕事をすることになりました」


 妖精は平然と言った。


 「フードデリバリー?」


 俺は呆れた。フードデリバリーって、あのピザや寿司を届けるやつか?それが特別な使命なのか?


 「ええ、そうですよ。この世界には様々な種族や文化がありますが、食べ物は共通の喜びです。あなたは神様から与えられた特別な自転車で、この世界の人々に美味しい食べ物を届けるのです」


 妖精は嬉しそうに言った。


 「自転車?」


 俺は目を疑った。自転車って、あのペダルを漕いで走るやつか?それで異世界を走り回るのか?


 「ええ、そうですよ。この自転車は神様の力で動くので、どんな地形でも走れますし、どんな食べ物でも運べます。あなたはこの自転車に乗って、お客様の注文に応えるだけでいいのです」


 妖精は自転車を指さした。俺はその自転車を見て驚いた。それは普通の自転車ではなく、色とりどりの装飾が施された華やかなものだった。後ろには大きな籠がついていて、相当な量の食べ物が運べそうだった。


 「これが俺の乗る自転車か……」


 あまりの自転車の美しさに、俺は呆然とした。

 

 「……まあ、頑張ってみるか」

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