第3-4話

ノアがステーキを楽しんでいる最中、マグナスはカウンターの向こう側から静かに近づいてきた。彼はノアの肩を軽く叩いて、その注目を引こうとした。


ノアはちょっと驚いた表情で顔を上げ、マグナスを見つめた。マグナスはにやりと笑いながら言葉を紡いだ。


「おい、ノア。最近の話を聞きたいか?」


ノアは興味津々で頷いた。彼女は冒険者として常に新しい情報に敏感であり、特に新しい地下迷宮の情報は気になるものだった。


マグナスは胸を張りながら語り出した。


「なんと、この街の近くに新しい地下迷宮が出現したらしいぜ!」


ノアは目を丸くして驚いた表情を浮かべた。新しい地下迷宮が現れることは、冒険者たちにとっては新たなチャンスと危険が入り混じったものだった。


マグナスは続けて説明した。


「まだ詳細は分かっていないが、冒険者ギルドも情報を集めている最中だと聞いている。これからまた新たな探索が始まるんだろうな。」


ノアは考え込むように少し頬杖をついた。


「新しい地下迷宮か……面白そうだけど……」

「なんだお前、浮かない顔を浮かべてよ」

「だって地下迷宮は基本知識としてヤバい場所って言われているでしょ? グロームスワンプにあるキノコの群生地と同じで超危険地帯。新しい地下迷宮には興味あるけど……一人旅が基本の私からしてみたら縁遠い話ね」

「まあ確かに地下迷宮の攻略は難しいとされているからな。最低でもプラチナランクの冒険者が5人は必要って言われているもんな」

「シルバーランクの私は挑戦する資格すら無いから」

「お前、あれだけの大物を倒してシルバーランクなのか?」

「そういえば入院してから一度も冒険者ギルドに足を運んでいないな……」

「お前なあ……。ま、俺の見立てじゃお前の実力はプラチナランクに相当すると思うから寄ってみろ」

「それじゃあ明日にでも行ってこようかな」

「おう」


ノアはマグナスに踵を返し、店を出た。





冒険者ギルド内は昼夜を問わず人で賑わっている。人がいないのは営業時間外ぐらいであり、基本的には冒険者や一般客が酒を飲み、小料理を食べているのだ。

ノアは真っすぐにカウンターへと向かう。

スタッフと目が合うと、スタッフが笑顔でノアを迎え入れた。


「お久しぶりですノアさん」

「久しぶり。ギルドランクの事なんだけどさ、昇級できるかどうかを確かめて欲しいんだ」

「かしこまりました。それでは確認致しますので特別狩猟免許証を提示してください」


ノアは後生大事にしている資格をいつも首から下げている。その資格を取り出し、資格をスタッフに手渡した。

スタッフはその資格を受け取ると首を傾げた。

資格にはノアのプロフィールと個人情報が書かれている。資格の縁は一目見て分かるようにランクの色で縁取りされているのだ。

ノアが持っている資格の縁の色は銀色。


「ノアさんって……シルバーランクだったんですね。依頼達成数もギルドからの信用もあるのでてっきりゴールドかプラチナランクだと思っていました」

「そうなんだよ。私まだシルバーランクなんだよね。簡単なものしかやってないから正直昇級できるかわからないんだ」

「そうですか確認致しますね。個人情報を扱うのでお部屋に案内致します」


ノアはスタッフに案内されるがままにカウンターの奥の部屋に案内された。

ノアは椅子に腰かけると、スタッフがそそくさと資料を取りに行った。戻ってきたスタッフの手には様々な情報を記録した資料が抱えられていた。

スタッフの女性が資料を机に置き、椅子に座ると丁寧にノアの活動記録を見ていく。


「なるほど……ノアさんは特別推薦だったのですね」

「特別推薦?」

「特別推薦とは、プラチナランクの上、ダイヤモンドランク以上のランクを有している冒険者に紹介された人の事を言います。基本的に何らかの功績や能力を持っていないと推薦されません」

「功績も能力も無いのになんでだろう……?」


ノアは疑問に思い首を傾げる。


「ノアさんは……えーと……。これはすごいですね……沢山の活動実績があります。活動自体は七歳から始まっていますし、高位ランクのアランさんと一緒とは言え過去1000件以上の魔物の討伐依頼を達成させていますよ」

「そ、そんなに?」

「それにアランさんの他に複数名の推薦が入ってますね。アランさんを通じてノアさんを推薦している殆どの冒険者がダイヤモンドランク以上……これは凄い事ですよ!」


スタッフは驚きを隠せないでいた。


「これだけの実績があれば、本来はギルドから申し出なければならなかったのですが申し訳ありません……。実績と功績だけを加味すると、ダイヤモンドランクに匹敵します。しかしギルドの規約上技能試験と座学試験を通らないとダメなんですよ」

「それは所謂……」

「筆記試験が必須になってきます。ゴールドランクへの筆記試験は免除されるとして、プラチナランクへ昇級するには筆記試験を通らないとシルバーランクのままとなります」

「筆記試験かあ……面倒くさいなあ」

「そ、それはそうですよね」

「でもまあ……やらないと駄目だもんなあ。でも筆記試験をやる意味ってよく分からないんだよね? 私みたいな冒険者って剣とか魔法で魔物やら怪物やらを退治する仕事でしょう? 謂わば筆を動かす仕事じゃなくて体を動かす仕事な訳じゃん」

「仰る事はごもっともなんですが、何分過去にいろんな事件がありましてね。ランクの偽装や違法的に魔物を狩猟して二次災害が出たりといろいろとありまして……。そう言う理由もあって、適切にルールや法律を守り理解し、それでいて魔物や怪物を適切に倒す方法を知らないと駄目ってことになったんですよ」

「なるほどねー」

「はい。それに冒険者は一般人と比べて武装している人が多いのでそれらを厳重かつ慎重に扱う必要もありますから」

「年々厳しくなってるもんね」

「そうですねー。筆記試験自体はいつでも受けられますが年に2回までとされていますのでよろしくおねがいします」

「じゃあ明日の夜受けに来る」

「はい! では予約を入れておきますね」


ノアはギルドを後にした。


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