謎のゴミ収集車

 僕のおじさんから聞いた話をしようか。おじさんはその日、嫌なことがあって居酒屋でお酒を飲んでいたんだ。そして、おじさんは車で家に急いだよ。深夜の2時。周りは家がなく、電灯の少ない田んぼと畑だけの道路だったよ。お酒のせいで判断力が鈍っていたんだろうね。おじさんは暗い道路を走っているときに、ごりっという嫌なものをタイヤで轢いてしまたんだ。おじさんは慌てて車から降りると、前輪のタイヤを見たよ。前輪の下に人が挟まっているのが見えたそうだよ。おじさんは人を轢いてしまったんだ。


 お酒の酔いが醒め、おじさんはとんでもないことをしてしまったと焦ったんだ。飲酒運転に人身事故だからね。警察と救急車はすぐに呼べばいいのに、おじさんはただその場で立ち止まっていたんだ。周りには車も目撃者もいなかった。家も近くに建っていないから、監視カメラに映っていることはない。おじさんはそんな悪いことを考えたんだ。でも、目の前の死体はどうしようか。そんなことを考えていると、後ろから車のエンジン音が聞こえてきたんだ。おじさんはもうおしまいだ、捕まってしまうと絶望しながら後ろを向いたんだ。


 そしたらそこに、真っ黒のゴミ収集車が近づいてきたんだ。ゴミ収集車はおじさんの車の後ろに止まったよ。血なまぐさい匂いと吐き気のする匂いが漂ってきたんだ。ゴミ収集車の助手席から、作業着を着た人物が降りてきたよ。顔は暗くてよく見えなかったみたい。そしておじさんに話しかけてきたんだよ。「いらないものを回収しに来ました」いらないものと言われて、おじさんは思わす前輪の下敷きになっている死体を見たんだ。作業員は車を一人で持ち上げると、死体を担いで、ゴミ収集車の中に放り込んだんだ。ゴミ収集車が動いてバキバキと嫌な音を立てていたよ。血なまぐさい匂いがいっそう強くなって、おじさんは思わず吐きそうになったよ。


 作業員は紙をおじさんに手渡したんだ。おじさんはブルブルと震える手で受け取ると、『廃品回収の領収書』と書かれていたよ。領収書の文字を見ていくら払うのかと金額のところを見ると、『おじさんの名前』と『地獄で魂回収』と書かれていたんだ。おじさんはどういう意味か聞こうと思ったら、作業員もゴミ収集車もいなくなっていたんだ。死体もなかったよ。おじさんの車は何事もなかったかのように綺麗なままだった。


 おじさんはそれからおかしくなってしまったよ。警察に人を轢いたと自首しに言っても、現場に証拠も死体もなければ、怪しいゴミ収集車が持っていたなんて誰が信じるだろうね。おじさんは今精神病院にいるんだ。さっきの話は面会に行ったときに話してくれたよ。ずっと、「罪を償う、魂を返して」としきりに言っているんだ。毎晩悪夢を見ているらしくて、青白い顔に目の下は真っ黒な隈ができて、痩せこけた頬をしたおじさんは別人みたいになったよ。おじさんは魂を取られることを怖がっているみたい。これがおじさんの体験した話だよ。

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