第3話 災厄《フェラケト》
チャクルの目の裏に、眩しい煌めきが焼きついている。イルディスの青、クルムズの赤、イェシュルの翠──それ以外の子たちも、みんな。
みんなの断末魔の表情が煌めきに重なって、チャクルの目から涙がこぼれる。圧倒的な
「カランクラル様! 大変です! みんなが──」
チャクルの震える声が、高い天井に虚しく響く。闇の御方の広く美しい宮殿が、やけに静かなのが、怖かった。
(
カランクラル様を傷つけた悪い
(誰か、どこか──)
息を切らせて、首を巡らせた時──チャクルの腕が、後ろから強く引かれた。
「きゃ──」
喘ぎながら振り向けば、力強い
「まだいたのか。お前も
腕を捕らえた相手の顔をはっきりと捉えるまでに、何度も瞬きしないといけなかった。それほどに、その存在は美しく眩しかったから。
髪も目も、金とも銀とも白ともつかない色をしている。何色、というよりも、とにかく眩しくきらきらしている、という印象になる。襟の高い服から覗く首筋や、チャクルを捕らえる手は灼けた
「
「あ? 俺の呼び名か? たいそうな言われようだな」
その男が苦笑したのは、惚けているとしか思えなかった。この容姿に、この力。何より、宮殿の惨状──みんなの、欠片。こんなことをするのは
「わ、我が君様を傷つけたんだから
涙がぽろぽろと頬を伝うのが。自由なほうの手で《
「やってないことで責められてもな」
「嘘、だって」
「あー、あの根暗野郎の綺麗なお顔を殴ってやったのは確かだけどな。仲間を手にかけたりするもんか」
「ねく──」
この上なく尊く美しい御方に対する、何という非礼、何という
「アイセル──」
「……あっちか」
チャクルがその子の名を呟くのと、《
(……こいつはここにいるのに、なんで?)
頭に過ぎった疑問を、ふわりとした浮遊感が吹き飛ばしていった。
「何するの! 放して!」
「俺も連れ歩きたくはないんだよ! だが、目を離して壊されたら後味悪いだろうが!」
抗議の声も、応じる声も、壁や床や天井の華麗な装飾と一緒くたに溶けて後ろに飛んで行った。そうして辿り着いた広間に、漆黒の影が佇んでいるのを見て──チャクルは絶望した。
(カランクラル様……逃げて……)
愛する主がひとりきりでいる時に、
「──来たか。同族の悲鳴にはやはり敏感だな」
いつも通り、
(同族……悲鳴……?)
訳が分からず瞬いて──チャクルは、見てしまう。カランクラル様のおみ足が踏みつける、細い身体、捩じれた手足。さっき悲鳴を上げた、アイセルだ。育てる石は、月長石。神秘的な色のその貴石は、アイセルの胸で無残に
「お前の姿を見たと
熱っぽく囁くと、カランクラル様は一歩、チャクルたちのほうへ踏み出した。アイセルの月長石を、無造作に踏み砕きながら。
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