ダンジョンよ永遠なれ

第52話

【ころころころね】『何が起きたん?』

【元冒険者】『なんにも見えん』

【ジョニー・チップ】『コメント打てるってことは負けたとかじゃないってことだよな?』


コメントの声がザラザラとしたノイズ音と共に聞こえる。その音に起こされ、私は目を開いた。体が重力に負けて落ちていく感覚と、霧のような白いモヤが目の前に現れ、それが晴れると夕暮れに見える夜景が広がっていた。しかも、真下に......。


『うおわああああ!? 落ち!? 落ちてる!!!!』


【酒バンバスピス】『おあああああ!?』

【ビキニアーマー親衛隊】『いつの間に?』

【ころころころね】『ていうかヤバいじゃん! 落ちたらガチで死ぬじゃん!』


『た、確かに! 前みたいに、ダンジョン外で魔法が使えるといいけど!?』


私は手の甲あたりにずらりと並ぶ宝石を握りしめ、思いを現実になるよう願いながら呪文を唱える。


『エアロ・ウインド! あら、反応しない!?』


【ふるい】『大ピンチじゃん!』

【おいたん】『ピンチどころの話じゃねえ!』


『でも、まだ地上に落ちるまで時間がありそう。これまでに、誰かに空で捕まえてもらう? いや、そんなこと......』


考えていると、遠くからヘリのバタバタという羽の音が聞こえ始めた。ヘリは私を見つけるなり扉を開き、虫取り網で虫を捕まえるように私をキャッチしてみせた。


『た、助かった......』


『よかった。弊社の開発したドローンにGPS機能を付けたのは正解だった』

そういうと男は、いつの間にか私の周りを浮かんでいたドローンを小突いた。


『あなた、確かドローン会社の社長の人!』


そこには、金色の服を身にまとった派手な男が私に手を伸ばしていた。

その人は前に、私のドローンで案件くれたゴールデン・嵐......だっけ?


『ゴージャス! 豪快に助けに来た、私を褒めてくれ!』


『あ、ゴージャス・嵐だ』


『なんだ、そのいままで忘れていたような言い草は。こんなに派手で豪快な男を忘れるなど、罪な女性だ』


嵐社長は自慢げに金髪をさらりと掻き分ける。すると、彼の前にいた男がこちらを向き始めた。


「お話し中悪いが、ダンジョン存続の危機なんだ。気を引き締めてくれ」


『あんた、ダンジョンワーム!』


男はシックなスーツを着ていたが、その信頼に置けなさそうな顔ではっきりと分かった。現ダンジョンの管理人だ。こいつ、今になって私を迎えに来たの?


「せめて、管理人と呼んでもらいたいね。まあいい。それより、今はあの邪龍たちだ。あれらが町で暴れれば、記憶操作どころの騒ぎじゃないぞ! 収集がつかんくなる......。せっかく復興したというのに私のマイドリームが!!」


『アニマス、安心してくれ。私達が絶対に食い止めて見せる。それに、ビキニくんがいれば百人でも千人でも配信者が集ってくれる! 私はそう信じている!!』


『私が? どうして、そう言い切れるのよ......』


正直この二人、いい加減でうさん臭くて信用ならんのよねぇ......。

ただ、二人の奥にあるダンジョンへの愛情はなんとなく感じている。そのなんとなくが、どこからかは私にはわからないけど......。


『君が、ダンジョンビキニアーマー配信無双という有名配信者だからだ! それに、君に恩のある人はたくさんいる。勇者の剣を持つ君が殿だ!』


『わかった......。やれるだけやってみるわ!』


私が意を決して頷くと、嵐社長は私にパラシュートを手渡した。社長は、自分のパラシュートを背負うと、すぐにヘリから飛び降りていった。ええぇ? また落ちるの?


「どうした? 行かないのか?」


『うるさいわね! 行くっての!』


「フッ......。それでこそ、私が認めた配信者だ」


私はアニマスを睨みつけながらヘリから飛び降りた。さっきと同じ重力に引かれる感覚。でもさっきまでの不安はない。パラシュートがあるというのもあるけど、もう一つは私が運に恵まれているってことだ。いろんな人に支えられているから、今生きれているということだ。その恩返しをするためにも、この状況をどうにかしなくちゃ......。


パラシュートを広げて、さらに近くなった地表を眺める。東京は、いや日本は邪龍の手によって闇黒の煙をあげながら悲鳴をあげているようだった。ビルは崩壊して、電車も止まっておりただ邪龍だけはズリズリと音を立てて東京の中心へと前進していた。


『止めねば!』


『そのために行くんでしょ!』


地上に降りて、パラシュートを背中から降ろして私たちは東京タワーへ近づくネグロニカへ向かう。その中、一人また一人と配信者が集合していく。


『まだなにも声かけてないのに!?』


『私が声をかけておいた!』


社長の行動が早すぎてもはや引くレベルだ。私たちは、ビルの中を駆け巡り剣を取りだす。


『そういえば、他の人たちは大丈夫なの? 一般人は?』


【ダンジョン管理人@公式】『すでに避難済みなので、思いきりやってヨシ!』

【ころころころね】『すげえ! 公式からのメッセージだ! 心強い!』

【元冒険者】『俺も準備でき次第行きます!』

【袋】『避難所からこんにちは』


『なら、大丈夫か......。届けえええ!!』


私は勇者の剣を振りかざし、斬撃をネグロニカへ当てるもネグロニカは進路を変更することなく進んでいく。やっぱり、あんだけ大きくなったら斬撃では効かないかっ!


『続けて! 僕が最短の道を創っていく!』


『キルト!』


クラフト魔法に長けたキルトが作った道路は地上を離れ、高速道路のように登っていく。私たちはその道を駆けあがり、ネグロニカの頭部近くまでたどり着くことができた。私はまたも斬撃を繰り出した。今度は頭部だったおかげか、こちらに反応してくれた。東京タワーの目と鼻の先、潰されようとしていた象徴にそっぽを向き私たちの方を追って来た。


『いい子ね! なら、これでも食らえ! ハイドロ・スラッシュ!』



水魔法が付与された斬撃は、ネグロニカの両目に当たり突然苦しみだした。私たちはネグロニカから距離を取り、一旦配信者全員で集まることにした。


『勇者の剣、ホントに効くの?』


配信者の一人が、不安そうに私を見つめて来た。さっきの猛攻を見て、そう思われるのも仕方ない。でも、打開策はこれ以外知らない......。


『わかんない。でも、私にできることはそれしかないから......』


『まあ、あんたなら何とかなるっしょ。じゃあ、勇者の剣が本調子になるまで私たちのライブで盛り上げよう! いくよ、れもん! しおりに借りを返す番だよ!』


私の前に、フリフリした衣装の来た女の子二人が立った。

この二人、一番始めに絡んだかんきつ女子の二人だ。


『借りとか知らねえし。アタシが目立ちたいからやるんだし!』


れもんの方は覚えていないみたいだけど、みかんはなぜか覚えてるみたい。

彼女らは、ぶつくさ二人の間で喧嘩を挟みながらクラフト魔法でスピーカーとギターを錬成し始めた。


『よっしゃ! 行くよ! 歌って踊れてギター弾けるスーパーアイドルかんきつ女子のライブマジック! そして、新たに発見したこの音に反応する魔石で作ったピックで音波魔法を出す! 実験じゃあ!』


軽快な音楽とギターの音が巨大なスピーカーから流れてくる。その音はこちらに近づいてくるネグロニカを鈍らせているようだった。彼はフラフラと歩きながらもこちらを向いていた。その大きな口を開いて炎を噴き出そうとするも、彼は音楽に操られるように踊りながら眠りについた。








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