第42話

 5回負けるとリスタートになる制度によって、対戦相手が降参することが増えた。負けると分かってる試合に賭けるより、次の試合で勝つ。もしくは次がないからやり直したほうが早いと思っている人間が増えてきた。


『ビキニアーマー選手、またも不戦勝!! 彼女を止める勇気あるものはいないのかぁ~?』


「おい、ふざけんなよ! 不戦勝じゃ金でねえだろうが!」

「リセマラ制撤廃しろよ!! クソ運営が!!」


だいぶ治安も終わってきたころに、私の前にようやく顔を見せてリングに上がってきた人がいた。


「では、私がお相手しよう。ダンジョン地下闘技王が一人。迷宮青龍拳のゴラド! 義弟がライガの仇、討たせてもらう!」


リングに上がってきたのは、前に対戦したトラ頭のライガの兄と自称する龍頭の男だった。ゴラドは、私を威圧するような目でにらみつける。


『また拳法使いの人か。いや、獣人って呼んだ方がいいのかな?』


【袋】『ひさしぶりの対戦きた――――!』

【ジョニー・チップ】『あとどれくらい戦ったらいいんだ?』

【ふっくら】『なんにせよ、がんばれ~』


コメント欄も前よりかは回復して増えているものの、ファンは固定され始めてる。

まあ、安定してきた証拠かな......。イヤホンから流れる彼らのなにげない会話を受け流していると、闘いのゴングが鳴った。


「青龍激流打!!」


『アクア・ベール=ミラ―!』


正面から打ち込まれた真空波をそのまま正面で受けようと円形の防御魔法を形成した瞬間、その真空波が右に曲がっていった。


『マジッ!? ぐええ!!』


「我が拳法に死角なし。私の流派は水のように自由な拳。実直な義弟と同じを思うなかれ!」


彼は拳法の型を披露しつつ、こちらへ近づいていった。


「青龍瀑布千流撃!」


振り下ろされる拳がいくつも見えて、私は押しつぶされるように地面に頭が付きそうになった。それでも、私は地面に付かないようにギリギリのところで持ちこたえた。


『ま、まだまだ!!』


「その気合と闘志は賞賛に値する。だが、往生際が悪いぞ!!」


『こういうのは往生際の悪い奴が勝つのよ! ガイア・プロテクト!!』


私の身体を覆うように、土がかまくらのように隠していった。

ゴラドが見えなくなったものの、彼はまだ動きを止めていない。

土にヒビが入っていくのが見える。一瞬の光が差した、その時を狙い定める。


『今だ!! アイヴィ・バインド!』


ゴラドの腕がツタで縛られて、攻撃がやんだ。


「相手を拘束するなど、卑怯千万!」


『それが、作戦ってやつなの。悪いわね。アイヴィ・ウィップ!』


ツタが鞭のようにしなり、拘束していた腕の鞭を絡めていった。

引き上げるとゴラドごと宙を舞って、私はそのまま彼を地面に叩き落とした。


「ぐああああ!!」



ゴラドが地面につくと、カウントが開始される。だが、その4カウント目くらいでむくりと起き上がった。


「卑怯者に、負けてなるものか!!」


ゴラドは自らその拘束していたツタを破り、私にタックルしてきた。


『グハッ!!』


「このまま場外に押し出し、勝利をわが手に!!」


『なりふり構ってらんなくなったみたいね......! でも、好都合! ハイドロ・カノン=ブースト!!』


密着するドラゴの身体と私の間に、どうにか自分の手を入れてそこから水の魔法を勢いよく噴射させた。だが、それは彼も呼んでおり、彼の身体全体から水を勢いよく出してそれを受け流していく。


「お前の十八番も、読んでいるわ!」


『その受け流しも、読んでた......。サンダー・クラッシュ!!』


水にぬれたゴラドは、出した魔力以上の雷撃を受けていく。

ゴラドは一瞬で止まり、場外ぎりぎりのポールに私の背中がこつんと当たった。


「がぁっ!? すべて、計算づくだ......と?」


バタリと倒れ、ゴラドは戦闘不能になった。


『半分ホントだけど、半分は勘ってやつだけどね~』


司会の声が、このフロアのダンジョンでたむろする人たちの声でかき消されるほど、私の相手はかなり強敵だったらしい。いや、久しぶりの戦いに沸き立ったのかもしれない。私はまたしばらく休むことにした。


『少し休憩がてら、雑談でもしようか』


今まであまりコメントを聞いてただけで、あまり拾えたりできなかったから

ここでもっとリスナーに耳を傾けるか。


【袋】『お疲れ』

【ころころころね】『最近戦闘系ダンジョンで、息抜きする暇なかったもんなぁ』

【ジョニー・チップ】『雑談しながらできるダンジョンイベントってなんだろ』


『ああ。まあ、結局戦闘になるとコメント拾えなくなっちゃうもんね。クラフト系のダンジョンとかかな。料理とかさ。そういえば、前にダンジョンの素材で料理したことあったっけ』


あれ、私料理系の配信ってやったっけ? それとも、プライベートでやったっけ?

うーん、思い出せない......。


【酒バンバスピス】『やってたくね?』

【袋】『違う人では?』

【和泉】『また記憶違い? やっぱり、変じゃね? このダンジョン』


『記憶操作、されてるのかな。でもダンジョン配信者だけじゃなく、みんなも記憶を操作されてるってことなの? みんなはなんか、変なデジャヴとか感じたことある?』


【ビキニアーマーを愛すもの】『デジャヴじゃないけど、ダンジョンって元から地下も地上も90階だっけってなる。キリ悪くない?』

【ねむねむ】『こんなもんだった気がする。ただ、デジャヴというと初配信って言ってるのに、どこかで一回は見たことあるような気がしてならないっていうのはある』

【元冒険者】『単純にその人が別垢でやってたとかじゃないかな?』


『わざわざ別垢作って初配信とかやるかなぁ......』


【61番、110番、リングAにお越しください】


 30分ほど雑談していると、アナウンスが入った。

気になることとかはあるけど、今は目の前のことに集中しよう。


『さてと、行きますか! みんな、また応援よろしく!』


そう言って、私はまたリングへ向かった。



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