第36話

「面白い! 面白いねぇ!! なら、ボクも本気でやってやる! プルバック!!」


ケンタウロスは私に背中を向き、上下運動を繰り返して私に突進してきた。

私はそれをかわし続けた。


そんな攻防が続いて2時間後......。


『ハァハァ!! そろそろ、視聴者も私も限界なんだけど?』


「ハァハァ......。クソっ! こちらもキレがなくなってきた......。だが、キミはキレはないものの華がある。それゆえ、ダンスが華やかに感じる! リズムの取り方も、身体の使い方もいい線いってる......。これで見納めになるのは辛いが、負けを認めるしかない」


そう言うと、ケンタウロスは足さばきをゆったりとしたペースに変えて、最後にはダンスを辞めた。


「おーっと!! クレイジープルバックが敗北宣言!」


MCとして初めに出会ったオークが、やっと進行を始めた。

四天王でやっと一人目か。


『やったぜ!! とりあえず、配信はこれで一旦終わりにするわ~。次は、チャンピオン戦挑戦のときに配信するねぇ』


【シーランド】『りょうかーい! 四天王頑張ってー』

\5,000【ころころころね】『配信しないの? 魔力大丈夫?』

【ジョニー・チップ】『魔力量はストックできるから、当分は問題ないんじゃね?』

【喜楽おこる】『チャンピオン戦楽しみ~』

\4,000【袋】『魔力代』


ドローンを停止させて、休憩していると先ほどMCをしていたオークがステージに上がって準備を始めた。


「クレイジープルバックを倒すとは中々だなメーン!? なら、次はこの俺! ダンジョン生まれ、ヒップホップ育ちのOKオークが相手だZE!」


「オッケー。早速始めましょう」


そう言うと、音楽が鳴り始めた。さっきとは違う聞きなじみのあるJpop風なBGMが流れていった。オークはその巨体を揺らしながらリズムと共に腕や足を上げていく。私も同様にリズムに合わせて魔法を打ち出していく。


「サンダー・クラッシュ!」


「フン! 威勢がよくてオレも気合入ってきたZE!」


オークは私の雷を華麗に、かつリズミカルに回避続けてボックスステップを踊り始めた。すると、突然オークの周りが四角いバリアのようなもので覆われていった。


「アクア・ポップコーンカッター!!」


ステップを踏みながら、私はオークに丸鋸状になった水を飛ばしていく。だが、オークの周りに張られたバリアがそれを跳ね返していった。


「これこそ、オレ様の編み出したボックスステップバリアだZE!!」



「でも、頭上はガラ空きなんじゃない!?」


私は回転を加えながら飛びあがり、オークの頭上へ炎の魔法を浴びせた。


「ファイアワーク・クラック!」


私の読み通り、オークの頭上はガラ空きで張っていたバリアに火花が飛び跳ねていって中で花火のようにきれいな爆発は起きていった。


「どう? 花火の中心にいた気分」


「面白いな! 気に入ったZE! オレ様は、お前に勝ちを譲るZEッ☆!!」


と言いつつも、オークは天井を指さして決めポーズをしっかりと決めてショーのメインを彩った。やはり、ダンスパートでは向こうが完全に圧勝していた感じがする......。


「勝った、というより勝たされた感じがあってモヤモヤする......。でも、勝ちは勝ちよ。さあ、次の相手は誰?」


「OK、チャレンジャー! 次の対戦相手を紹介するZE☆! 次のメンバーはこいつだぁっ! ディスコグラフィでステージを魅了してくれっ! サキュバスクイーンの、ナイトフィーバー・キュルン!!」


オークが紹介すると、フロアにあったミラーボールが動き出して古くもどこか聞いたことのある音楽が流れ始めた。すると、ステージ奥からアフロヘアに小さめのレンズのサングラスを付けた布面積の少ない角の生えた女性が堂々と現れた。


「DJ、もうやられちゃったの?」


「いや、お前に早く会わせてやりたくて勝負を降りちまった。すまないメーン☆。ただ、こいつとのフィーバーはアツいものになるっていうのは、保証するZE☆」


「あんたが言うなら......。そうね。じゃあ、私とフィーバーする?」


オークの言葉に、ナイトフィーバー・キュルンは私に対してバトルを申し込んできた。私は当然のように頷いた。


「その威勢、いいね! それに、さっきのバトルも不満があるみたいだし......。いい闘いになりそうだ! フィーバー!」


サキュバス=キュルンの言葉が合図になったかのようにステージ周りから、爆発音と金銀入り混じった紙吹雪が舞って来た。キュルンはリズムに合わせて腕を交互に上げたり下げたりしながらこちらに近づく。


「どう? ダンスは楽しい?」


「私、人生でこんなにダンスしたことないんだけど? ていうか、どうすれば勝ちとか基準があいまいなのが一番キツイかなって......」


「大丈夫! ダンスは楽しんだもん勝ち♥ さ、スマイルスマイル♥」


私の顔に彼女の手が触れる。そして、彼女は指を使って無理やり笑顔を作ろうとする。


「やめへくらはい!」


キュルンの手を退けて、私は腕を体の前でぐるぐると回しながら魔法を繰り出す。


「エアロ・ミクス=シュリケン!」


ぐるぐると回った風魔法が複数の手裏剣となって飛び交っていく。だが、そのことごとくをジャンプしたり、開脚したりして回避していった。そのすべてが美しく思わず見とれてしまう。


「私の魅惑ダンス魅了みとれなさい♥ 【let's gloove】」


キュルンが指ハートをステージ外に見せて、そのままその指にふぅと息を吹きかけた。すると、ステージ外で見ていたオークと一緒に来ていたビルドマスターのキルトがステージに上がってきた。


「まさか、幻惑操作!?」


「さあ、どうかしら......。でも私はソロより、グルーブでダンスを完成させるディスコクイーン。どんな手を使ってでもこの勝負、勝ってみせるわ」


「私だって、負けるわけにはいかない!」


劣勢な状況を打破したいけど、この空気感......。グルーヴを彼女が支配している限り私に勝ち目はない。それなら、どちらか二人をこちらに引き込むしかない。つまり、私の勝機はキルト奪還にかかっている! よし、私のダンスであいつの目を覚まさしてやる!




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