第9話

 最近は、地下ダンジョンにちょこちょこ入るようになった。案件でもらった高性能ドローンのおかげで、私の配信はかなり画質もクオリティも上がっていた。編集も楽しくできるようになってきた。


「うわ、質問箱溜まってる......。探索ばっかりじゃ飽きるだろうし、ちょっとは雑談枠でも作ろうかな......」


質問箱。かつて別の配信サイトが流行っていた時代、配信者が話のネタに使っていたものだ。私を見てくれている人たちが沢山の質問をよせてくれているみたいだ。ゆきずりでダンジョン行くはめになるかもだし、ダンジョン内で雑談でもするか。たしか、1階にコミュニティスペースあったはずだし......。


「行きますか......」


息を大きく吐いて、探索グッズ一式を持って自宅を後にした。電車に揺られ、数十分。高輪ダンジョンゲート駅から、都内にそびえ立つダンジョンの前までものの数分でたどり着く。外見は他の高層マンションと遜色なく、円筒型のタワーマンションにしか見えない。これが、ダンジョン7不思議の一つとも言われてる......。


「やっぱどう見ても大きめなオフィスビルとしか......。ま、どうでもいいけど」


私はその中に入り、1階奥にあるコミュニティスペースまで歩いて行った。コミュニティスペースは、パソコンの使用の他探索者たちの情報共有の場となっている。


「お、誰もいない。で、肝心の個室はあるかな」


コミュニティスペースの中には、個々で配信できる用の個室が配置されてる。個室の中は小さなスタジオのようになっていて、かつ防音設備が整っていて正直家より捗る。


「さて、パソコンは持ってきた。ドローンも用意済み。カメラOK......っと」


家から持ってきたパソコンを個室の机の上に置いて、カメラも準備していく。Dストのコメント欄を見てるとさっきSNSでつぶやいたばかりの配信枠だって言うのに2000人がこの配信を観てるみたいだ。ダンジョンばかりやってる配信者だから、視聴者層もダンジョン見たい人ばかりだと思ってた。


『みんな、お疲れさま~。今日はね、まったり雑談をメインに配信したいと思いまーす。よろしくね~』


【袋】『待ってました』

【ドエロ将軍】『カメラ位置良き。今日はまったり堪能します』

【酒バンバスピス】『いえーーーーい!!』

【ジョン】『8888888』


『さて、早速やっていくか......。質問箱をランダムで開いていきまーす』


さて、どんな質問が来るのやら......。私は、おそるおそる質問コメントを一つ開いてみた。


<スリーサイズおせーて>


答えれるか、ボケ。


『はい、セクハラ~。無視しまーす! 次!』



<ダンジョンの中で、倒すのが大変なモンスターって?>


『面白い質問だねー。この前のアルラウネみたいな人型かな~。強い弱いとかじゃなくて、見た目が人間なのに剣とか銃とか魔法で攻撃すんのってなんか......ね?』


【元冒険者】『あー、なんかわかる』

【袋】『ソロで入ったときは、ミノタウロス大変だったな』

【酒バンバスピス】『へー。行ったことないからわかんね』


コメントは盛り上がりはじめ、私も質問をいくつかさばいていく。しばらくつまらない私のプライベート詮索が続き、飽きていたころ面白そうな質問が選ばれた。


<今度、ダンジョン内で公式イベントがあるそうです。姐さんは、参加されますか?>


『イベント? 何それ、知らない......! 知ってる人いたら教えて!?』


【劣等感】『ハロウィンイベのことかな』

【ふっくらパン】『近場のイベントだったらそれかも!』

【ドエロ将軍】『ハロウィン限定コス防具もあるぞ!』

【元冒険者】『10月25日から11月3日くらいまでやってるハロウィンイベントで、なんかレアモンスターが出るとかでないとか』


今日はたしか、10月28日......。てことはもうイベントやってるじゃない!

掲示板全然見てなかった......。今すぐってのも枠作れないし、イベント自体配信OKなのか確認しとかないとだから、今日は調査も含めてイベント確認してみよ。


 『情報ありがと~。配信できるかもかねて、今日明日中に確認してみるね!』


¥50,000【ドエロ将軍】『明日中までにイベント配信できなかったら、どスケベサキュバスコスしてください』


¥5,000【元冒険者】『えっちな衣装いっぱいあるので、ビキニアーマー以外の衣装も見たいです!』


なんだか、いかがわしい雰囲気を感じて来た......。切り替えて別の質問行こう。私はまた、質問箱から一つ質問をピックアップした。


<ビキニアーマー以外の防具関係は着ないんですか? たまにはかわいい衣装もみたいです!! スタイルがいいのでなんでも似合うと思います!>


『わぁ、かわいい! 純粋な子そう!! 確かに、他にも衣装着たいよ? でも【ビキニアーマー配信無双】っていうネームブランド上、他の防具着るってのも興ざめよねぇ......。これは、宿命だわぁ』


思った以上にリアルに答えてしまった......。だけど、これが私の今の答えだ。ビキニアーマーですべてのダンジョンを攻略、探索するというコンセプトなんだ。簡単に衣装チェンジするわけにもいかない。


¥3,000【ジョン】『世知辛い......。でも、その真摯なのは伝わる。これからもビキニアーマーを着て欲しい』


¥800【えっちらほい】『宿命かぁ......。がんばれーーー!!』


みんなの応援メッセージとスパチャが増えたところで、すでに1時間半ほど時間が経っていた。いい情報も手に入ったことだし、今日はここまでにしておくか......。


『これで最後にしようっかなぁ......。ほらほら、みんなぶーぶー言わない! ラスト! ラスト質問行きまーす!!』


<地下ダンジョン配信見ました。少し、顔が強張っていたように見えたのですが地下が苦手とかですか?>


『に、苦手じゃない......よ?』


【じょうろ】『嘘つけ』

【袋】『バレバレの嘘で草』

【酒バンバスピス】『正直に答えた方が楽になるよ?』


『う、ウソじゃないもん!!』


というよりは、最近やっと慣れたというだけで、今も正直暗いイメージのある地下ダンジョンは苦手だ......。雰囲気重視なのかしらないけど、照明も最小限しかないし......。


【元冒険者】『まあまあ、誰もみな怖いものがあるもんだし。俺は、高いとこ無理だし』

【ドエロ将軍】『俺はおっぱいが怖い』

【れたー】『「まんじゅう怖い」かな?』


『くぅっ......。そうだよ、怖いよ! でも、最近は楽しいもん!! じゃあ、今日はほんとにこれで終わりにするから! じゃ、また明日ね~。明日は、できたらイベントに出ます!!』


そう言って、私は配信を切った。珍しくダンジョン探索がなかったのを残念がるコメントもあったが、元よりそういう企画だったんだ。その人にはまた明日楽しんでもらえばいいや。


「でも、ちょっと物足りないし遊んでから帰るか」


私はパソコンや荷物を預けて、配信なしの完全プライベートなダンジョン探索を、小1時間ほど潜って、気持ちよく汗をかいてダンジョンを後にしたのだった。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る