第7話

 後回しにしたツケが今日に回ってきた。軽い頭痛を抱えながら、ネットでドローンの値段だったり、メーカーを調べてみた。でも、どれもピンとこない。


「正直、何選べばいいのやら」


 一か八かで、SNSでドローンの買い替えを呟いてみたら。いろんな人から「あれがいい」やら「これがいい」やらの応酬が続いた。さらには、ダンジョン配信用ドローンを開発・販売している会社から「うちの台をプロモしてくれたらあげるよ」とコメントが寄せられた。


「マジで言ってんの? 配信するまで時間あるし、話だけでも聞いてみようかな」


 その会社はダンジョンのある都内にあるみたいだし、行ってみる価値はあるか。それに、『ストーム株式会社』っていう会社名、どこかで聞いたことあるし。

私は休日の空いた電車に揺られ、その会社に指定された場所へと向かった。そこは自動車販売店のように中の見える窓となっていて、たくさんの人がドローンの試運転をしてにぎわっていた。


「やっぱそうじゃん。ストーム株式会社って、配信ドローンのパイオニアじゃん。私なんかにコメントしてくれるなんて、天からの恵みね」


中に入って、事情を説明すると店内奥から煌びやかなスーツを着た男性が姿を現した。


「初めまして。あなたが、ダンジョンビキニアーマー無双のしおりさんですね?」


そういうと、煌びやかな男性はおしゃれなサングラスを外して握手を求めてきた。

私は、彼の圧に負けてぎこちない笑みを浮かべて彼の手を取った。


「よくご存じですね。それで、あなたは?」


「ダンジョンドリーマー、ゴージャス・嵐と言えばわかりますか?」


いや、知らんし。


「は? いや、ちょっとわかんないっす」


思わず本音が出てしまった。だが、嵐さんは怒りの仕草など見せずに逆に嘆いていた。


「私の名が轟いていないのは、なんと嘆かわしい!! それは我々の宣伝不足というものだろう......。仕方あるまい。これから知ってもらうことにしよう。これから話す、ビジネスの話でね」


「ビジネス、ですか......」


確かにSNSでのコメントでは『ビジネスパートナーとして、ドローンの話をしませんか』と書いていた。ドローンのプロモーションをしながら、ダンジョン配信をしてもらおうということだろうか。



「ビジネスとは、一期一会。そして、即断即決。ぜひ、プロモーションをキミにやってもらいたい。私の戦略としては配信が難しいとされる地下ダンジョンへと向かい、我々のドローンの性能がいかに優れているかを証明したいのです!!」


嵐さんはゴールドのメッシュの入った前髪をかき上げ、私を熱いまなざしで見つめる。なんなの、この人......。にしても、私の苦手な地下か......。私、暗いの苦手なのよね。


「なるほど。確かに地下ダンジョンの方は、ごく少数の配信者しか行かない秘境って言われてるからマンネリしないし、悪い話ではないわね。私が暗所恐怖症なのを除けばだけど」


「だが、今波に乗っているキミが華となり、ダンジョンモンスターを倒す姿。私はこのストーム365Gに収めたい。私がキミのファンだっていうのもあるけどね。ま、怖いのなら強制はしない」


「背に腹は代えられぬ......。まあいいわ。これでドローンがもらえるのなら」


「ああ、契約成立だ!! では、早速ダンジョンへ向かおう!」


そう言うと、嵐さんは煌びやかなスーツからダンジョン用のまたまたゴージャスめな防具に早着替えして私の前に姿を現した。いつ着替えたんだよ......。私は、嵐さんの変な押しの強さに流されながら、ダンジョンへと向かった。電車ではなく、彼が用意した社用車で。黒いメインカラーのボディに、白字で『STORM』とシールが貼られている社用車は、すぐにダンジョン前に併設された駐車場に着いた。



「さて、手続きをしようか」


社長がダンジョンの受付嬢に話している途中、私はどうしても気になっていることがあった。配信者である彼自身でドローンのプロモーションはしないのだろうかと......。私はそれを彼に直接聞いてみることにした。


「いいけど、ちょっと気になったんだけどさ。そもそも会社専属のダンジョン配信者なら、あなたが一人でやればいいんじゃない?」


「それは違う。ビジネスと言うのはコミュニケーションだ。独りよがりにできるものではない。配信もその一つだと思う。だが、社長として守る立場と体があるからな......」


なるほど、要は私はこのゴージャス社長の用心棒ってことね......。この人、一体どんな風にいつも配信してるのかしら。


「確かに、そうね。頂いた分は働かせてもらうわ。配信見てもらってるからわかるとは思うけど、強さは自負してる。でも、あなたの命は預かれない。あくまで時間稼ぎに過ぎないってことだけ、覚えておいてね」


「ずいぶんとドライな言い方をする方だ。だが、それもまた気に入った。いいだろう。私とて、配信者の端くれ。自分の身は自分で守るよ」


私たち二人は、ダンジョンの入場申請を済ませて地下ダンジョンへと向かった。今回はエレベーターではなく正規の階段で行くことにした。まずは地下1階で肩慣らしと言うわけだ。


「ドローンの撮影状況と、君の力を生で見届けたい。ここで幾戦かしていただきたく」


「了解。軽く、準備運動しちゃうわね」


そう言って私が肩を回していると、すぐに苔だらけの床の隙間から水滴があふれてきて、それが一個体の生命体として姿を現した。いわゆるスライムってやつだ。彼らは漫画のように目があるわけではないし、予想より大きい。大体、私の胴体くらいまで覆うようなくらいだった。これまで地上階で見た、見た目もサイズ感も可愛いものとは違う、異質さを感じる。しかも、そんなのが3体もいる......。そしてそいつは、クリオネやプランクトンのように器官が外から丸見えの状態だった。その器官は、どうやら私たちの微量な体温を探知しているのかサーモグラフィーのように色を変えていく。私たちを見つけるやいなや、スライムの器官は赤と白に点滅していく。


「思ってたよりでっか......」


「スライムなら下級の炎属性魔法で対処可能ですよね?」


「知ってるっつの!」


私はガントレットにちりばめられた魔法石に力をためた。すると、炎が手の周りにまとわりつく。これが意外に熱くない。それを散弾銃のように火球としてばら撒いていく。火球は3体のスライムそれぞれに直撃し、すぐに爆発していく。


「うお......。びっくりした」


「どうやら、今のはエクスプロ―ジョンスライム。自爆特攻型スライムのようだね。大方、人間の捨てた酒の缶から摂取したアルコールによって突然変異したものだろうね」


「あら、くわしいのね」


「僕はダンジョン配信者の中でも、モンスターの生態を観察するタイプだからね。君たちみたいなレアコレクターのようなものとは違うのさ」


「へえ。色々といるのね。配信者ってのは」


社長に関心しながら、地下1階にいる雑魚モンスターを刈り取っていく。ドローンは勝手に画角を調整しながら、その様子を撮影していく。もう慣れたことだけど、自動操縦のドローンってすごいわよね。前はリモコン操作もあったから大変だったのに......。


「さあ、次々倒していこう!」


私はそうして、何回か準備を重ねてようやく配信の準備が整った。ようやく、この日が来たのだ。自分の経歴として、初めての案件というやつだ。張り切っていかないとね。

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