ダイタボウとケモノたち

コトノハザマ

第1話 プロローグ

 涙がとめどなく溢れてくる。

 拭わないのは、手が土で汚れているからじゃない。拭っても拭っても出てくる涙はきりがなかったし、“拭う”という行為が悲しさを薄れさせる気がして、嫌だったからだ。


 庭に掘っていた穴は、子供がしゃがんで隠れられる位の深さになっていた。単純な作業は気を紛らわせるには良いものだが、限度はある。


 一息つき、土で汚れた手を首に掛けたタオルで丁寧に拭いて、僕は縁側に置いた壺を手に取った。

 暖かくも柔らかくもない、無機質な素焼きの壺。だけど、抱きしめるとその中に眠る友だちの感触が鮮やかに思い出されるのは、不思議なものだ。

 僕は壺に額を当てながら最後の言葉をかけようとして、しばらく立ちすくんだ。何を言っても、返事が返ってくるわけではない。だけど、一つだけ心に浮かんだ言葉を口にした。


「ありがとう」


 穴の底にそっと置き、手で土を被せる。壺が隠れて消えていくごとに、むしろ様々な思い出が蘇る。

 壺の体積の分と、掘り起こした土が含んだ空気の分だけ盛り上がりそうなものだが、不思議とそうはならなかった。

 埋め戻したその場所に、僕はそっと石を乗せた。石には、近くの石材屋で彫ってもらった文字がある。


   レックス

   享年26歳

   大切な友


 雌のイグアナ。僕が生まれる前から我が家にいた中の、最後のペット……友達。平均と比べれば、相当な長寿だったと思う。

 その亡骸を、僕はこの日自宅の庭に埋葬した。


 そして、僕は独りになった。

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