日本張型道 vs アメリカンディル道

@dekai3

第一話 逆境のエア受粉

「張型道の未来の為におちんちんの型を取らせて下さい!!」


 暑い日差しの降り注ぐ校内菜園のプレハブ小屋の裏。

 下半身を露出して背を向ける僕に、クラスメイトである田縣たがたくんは艶やかな長い黒髪をふわりと風になびかせながら、落ち着いた色合いの藍色の和服姿で、熱意を込めた声でそう言った。







 話は数分前に遡る。

 二年生でありながら菜園部の部長である僕は日課である校内菜園の水やりと野菜の収穫の為に体育館裏に訪れ、夏の日光を浴びて艶やかに煌めく野菜達の健康的な肌と、可食部でありながら芸術的な曲線美を魅せる実や根のエロティズムにより、ムクムクとはち切れんばかりにエレクチオンしてしまった僕の雄蕊のエア受粉をしていた。


 果物や野菜はとても性的だ。

 僕は生の果実や野菜を見ると雄蕊がエレクチオンしてしまう。


 そんな僕にとって部員の大半が幽霊部員という菜園部はリビドーとパッションを溢れさせれる最高の環境であり、真面目に菜園の野菜達を育てていれば先生達からの評価も上がるという天国である。

 元から体育館裏の校内菜園は人気が少ないし、誰か来たとしても入口に『部員以外立ち入り禁止』の札がかけてあるので、わざわざ校内菜園の奥のプレハブ小屋の更に裏になんか来る人は居ない。

 なので、僕は絶好とばかりに毎日ここでエレクチオンしてしまった雄蕊をエア受粉させている。水道もあって綺麗に洗えるしね。


 しかし、まさかエア受粉中に人が来るなんて思いもしなかった。

 しかも相手はクラスメイトの男子であり、田縣たがたくんは地元の名士の跡取りだ。

 田縣たがたくんに声をかけられた瞬間。僕は咄嗟にエレクチオンしている雄蕊を手で隠しながら田縣たがたくんに背を向けたのだが、その僕の背に掛けられた言葉が、




「張型道の未来の為におちんちんの型を取らせて下さい!!」




 と、いう物だったのだ。


 何かの聞き間違いだと思ったが、田縣たがたくんは張形部の副部長で昨年の全国大会準優勝のエースディルダーだったのを思い出す。

 張形部は古来より子宝祈願や豊穣祈願の為に男性器を模した像を作る張形道を学ぶ部活で、いかに見事な張形を作って花と一緒にイケれるかで競うらしい。

 僕からしたらそんな物よりもトランスアキシャル面切断された無花果の断面の方が興味ビンビンなのだが、張形道は上流階級の人間なら嗜んで当然みたいなところがあり、やはり名士の跡取りたるや女装だけでなく張形についても一物を置かれなければいけないようだ。

 そもそも名士の息子は女装、娘は男装をするのが当たり前という風潮自体がどうかと思う。いやまあ田縣たがたくんの女装はピンとした茄子みたいにとても似合っているからいいんだけど……


 いやいや、今大事なのは田縣たがたくんの女装が似合っているかじゃないんだ。

 問題は話の流れからして田縣たがたくんは僕のエレクチオンした雄蕊を見た事があり、僕がここでエア受粉をしているのを知っていた事だ。

 誰にも気付かれていないと思っていたのに、既に田縣たがたくんにバレているとう事は他の人にもバレている可能性がある。

 これはやばい。折角普段は真面目な優等生を演じていたというのに、校内で雄蕊を出しているのがバレているとしたら女子生徒全員から変態を見るかのような蔑んだ目で見られてしまう。それはそれで興奮するけど社会的立場は大ピンチだ。

 とりあえず田縣たがたくんからはどうして自分の雄蕊の型を取ろうとしているのかと合わせて、それとなく情報を聞き出さなくてはならない。

 という事で、僕はエレクチオンしっぱなしの雄蕊を無理やりズボンに押し込め、田縣たがたくんへ振り返りながら訊ねる。


「い、いったい何の…」

「お願いします! 日本張型道の未来が掛かっているんです!!」

「うわっ、近っ!」


 僕が振り返った瞬間に スススッ と滑る様に距離を詰め、僕の手を握りながら涙目で見上げながら懇願してくる田縣たがたくん。

 これはヤバい。天然なのか養殖なのかは分からないが、田縣たがたくんみたいな外見の可愛い子にこんなに近寄られたら、いくら果物や野菜好きの僕でもコロナル面切断されたピーマンを初めて見た時みたいにドキドキしてしまう。

 田縣たがたくんは身長が低めで僕の肩までしか無いし、なんかいい匂いするし、やけに体を摺り寄せてくるし、ああダメだ。こんな茄子の中身の柔らかい部分みたいな白い肌をしていて、奥行きのある紺色の生地を使用した梵天丸茄子みたいな色合いの着物を着た子にくっつかれたら…


「うっ!」

「うっ?」


 僕の苦しそうな呻き声とは裏腹に、田縣たがたくんが小首をかしげながら出した疑問の声は、それはもう鬼燈の様に可愛らしい物だった。

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