第6話 お金がない

 僕にはお金がない。身寄りもない。友達もいない。

 あ、友達はいたか。ドラゴンだけど……。


 とにかく家を確保しないとね。街中で野宿はさすがの僕でもごめんだ、ただのホームレスじゃないか。

 生活保護という制度はこの世界にはないだろうし。


 だから僕はここに来た。


 この街に入るときにちらっと見えた大きな建物。


 ただ大きいだけではない。

 かなり目立っていたので僕ははっきり覚えていたのだ。


 そう、教会だ。


 この世界は文化的に欧米に近いものがあるので、建物の建築様式はまさしくあの十字の教会にそっくりだが。

 ここの神様はシャルロッテだ。さしずめシャルロッテ教会と言ったところか。 


 僕は教会の入り口のドアを勢いよく開く。


 そして建物の中に響くように大きな声で挨拶をする。

「たのもー!」


 思ったより声が響いてしまった。反響した自分の声が耳に返ってきた。

 うわー、馬鹿っぽい声だ。少し自重しないといけないな。一文無しの態度ではない。

 

 改めて、建物を見回す。

 建物の内装は、いわゆる大聖堂というやつだ。

 

 大聖堂の内部に足を踏み入れると、圧倒的な高さと広がりが目に飛び込んでくる。

 巨大な柱が天井までそびえ立ち、石造りのアーチが美しく弧を描き、重厚な雰囲気を漂わせている。

 聖堂内部は豪華なステンドグラスで彩られており、太陽の光が柔らかく差し込み、多彩な色彩が床と壁に広がる。

  

 うむ、思った通り、やはり文化圏的に欧米のそれにそっくりだ。

 ここは地球ではないので当然、十字架はなかったが代わりに女神像が中央に鎮座していた。


 あれは女神シャルロッテの石像だな。

 僕は聖堂の奥まで進み、それに近づくと優しく微笑む女神が僕を見下ろしていた。

 うむ、これを作った彫刻家、やるな。

 精巧に作られた女神像は躍動感に溢れており今にも動き出しそうなくらいだ。


 だが……これには偽りがある。

 胸が大きいのだ、2カップほど増している、これは彫刻家の趣味か?


 いや、神々の像を掘ることができる高名な彫刻家は、自身に神のイメージが降りてくるのは地球でも知られていることだ。

 敬虔な信者がそんなことをするとは思えない。


 ならば、シャルロッテめ、あいつ彫刻家のイメージに細工しやがったな。


 まあ、実際の姿を見たのは僕だけだ、黙っておけば問題なかろう。

 ぶふっ。良い土産話が出来た。


 女神像の前で笑いを堪えていると後から声が聞こえてきた。 


「どちら様かね。今日の拝礼はもう終わったよ」


 振り返ると、そこには、壮年のシスターが立っていた。

 シスターが着ている修道服も細かな違いはあるけど地球の物に似ている。


 彼女がこの教会の院長さんかな。

 僕の声を聞いて隣の建物からここまで来たのだろう。


 隣の建物は孤児院になっている。

 そう、僕がここに来た理由。


「院長先生。ここで僕を引き取ってくれないかな?」


 …………。

 ……。



 僕は孤児院の建物内にある院長室に案内された。


 とりあえず話を聞きましょう。ということで案内された。

 さすがはシスター。こんな変な奴相手にも親切だ。


 どうやらシスターは本当に院長先生だった。


 僕は部屋の真ん中にある椅子に座る。

 テーブルをはさんで向かい側に院長先生。


 この部屋の内装はすべて質素であったが椅子とテーブルは少しだけ豪華だった。

 座り心地がいいのは良いことだが、はて、それは孤児たちにとっていいものか……


 そんな疑問を察したのか、院長はため息交じりに言った。

「この椅子とテーブルは王城の役人たちの来客対応をするために少しだけ豪華なものを選びました。

 お相手は貴族様ですので、あまり座り心地が悪いと不機嫌になられます。それで出資金を減らされてしまっては意味がありませんから」


 なるほど、この院長やり手だ。祈れば全て解決すると思ってるお花畑とはものが違う。


「さて、自己紹介しましょう。私はシスター・テレサ。この孤児院の院長をしております。お嬢さんの事を聞かせてもらえますか?」 


 シスター・テレサはそう言うと、優しく、そして温かい表情で僕に話しかけた。 

 いい人だ、顔を見ればわかる。この人は人間にしては珍しく本当に純白な魂をもっている。

 

「僕はユーギ・モガミといいます。実はここに来たのは、お金が無くてですね。寝泊まりをさせてもらえないかと。

 あと、最近産まれたばかり……いや、最近までの記憶が無くて身寄りもなく、どこに行けばいいのか分からないんですよ」 


 院長は動揺すること無く、憐れむ様子もなく。かといって厳しい態度を取るわけでもなく変わらぬ表情で答える。


「それは、さぞつらかったでしょう。ここにはあなたの様なつらい境遇の子供達がたくさんいます。もう安心ですよ」


 そうして、僕はここの孤児院でお世話になることになった。


 ちなみにここに居られるのは15歳までという規則がある。大人になったら就職をして出ていくためだ。

 僕は年齢不詳だが、この外見で15歳はさすがにやりすぎだ。おいおいどころではない。 


 年齢も記憶にないことにしたが、身体は大人なのだ。 


 なので職員として住み込みで働くことになった。


 シスター・ユーギの誕生だ。

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