episode03 sideクロ

 君と僕が住む森は、美味しい果物がよく実り、動物たちが平和に暮らす穏やかな場所。

 小さな湖があって、そこから小川が流れている。

 キラキラと陽の光を反射する湖面には、陽の光に負けないくらい眩しい銀の鱗がチラついている。


 獲物に狙いを定めて、「えいっ」と君が釣り竿を振り、ぽちゃんと水面に木で作ったブイが浮く。ぷかぷかとしばらく漂って、とぽんっとブイが沈んだら慌てず竿を引く。


「やった! クロ、釣れたよ」

「にゃあ」


 ピチピチと活きのいい川魚が釣れた。

 今夜は魚料理に決まりだ。やったね。


 君は竹を編んで作った籠に魚を入れると、再び「えいっ」と竿を振る。そして腰を下ろしてジッと獲物がかかるのを待つ。君の分と僕の分、最低二匹は必要だからね。

 その間、僕は籠の中の魚にちょっかいをかけたり、静かに気配を消して座る君の隣で水面を漂うブイを眺める。


 チチチ、と小鳥が囀り、ザァザァと木の葉の掠れる音がする。柔らかな風が頬を撫でて、僕たちに語りかけてくる。


 え? うん、そうだね。毎日楽しいよ。

 一人で生きてきた時を忘れるぐらいには、僕は君との生活が気に入っていたし、これからもこんな何気ない日々が続けばいいなと思ってる。

 そりゃ、ずっと君のそばに居れるとは思っていないよ。魔女はとても長い刻を生きるからね。それに比べてただの猫の寿命は短いもんさ。せいぜい毎日を大切に、噛み締めて過ごすことにするよ。


「やった! 釣れたよー!」


 僕が木々と語り合っている間に、どうやら君はもう一匹釣り上げたらしい。

 じゃーん、と誇らしげに僕に魚を見せる君はあどけない笑みを携えている。ふふ、ちょっくら褒めてあげようか。


「んにゃん」

「わっ、クロったら」


 君の足元に擦り寄って、しゅるりと尻尾を巻きつける。

 君はくすぐったそうに笑うと、魚を籠に入れてから僕をひょいと抱き上げた。ゴロゴロ喉を鳴らしながら、ぐりぐり君の頬に額を擦り付ける。

 するとまた君は笑って、僕の頭を撫でてくれるのさ。


「さ、今日は川魚のムニエルにしようか」

「にゃ!」


 獲物はなかなか立派な大きさだったので、二匹で十分今夜の晩餐には事足りる。籠を持ち上げた君に続くように、僕も温かな三角屋根のお家への帰路についた。


 もちろんこの日の夕飯は最高だったよ!

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