第40話 元カノ達の変化 その二


 御手洗さんが最新テクノロジー事業部へ移動してから、更に半年が経った。営業部には新しいセクレタリが補充され、まどかは、営業部長と一課のセクレタリを兼任している。


一時は二課も担当していたので相当に大変だったようだが、見かねた部長が急いで二課のセクレタリを探したらしい。


 まどかとは、普通に話す様になっていた。彼女も俺の事を前の様な目では見なくなっている。


 ある時、珍しくまどかが俺の所に来た。俺のセクレタリの溝口さんも何?って顔をしている。


「神崎部長、もし宜しかったら今日の昼食一緒に摂って頂けますか?」

「構わないけど?」

「ありがとうございます」


 それだけ言うと彼女は自分の席に戻って行った。

「神崎部長、午後二時から専務執行役員会議への出席があります」

「ああ、そこまで遅くはならないだろう」


 溝口さんも俺とまどかの普段の会話の内容に単純に社内の関係だけでは無い事は気付いているようだ。さすがキャリアな方だ。

 後、何故か富永さんが俺の顔をジッと見ている。どうしたんだ?



 

 昼休みになると俺は七階のカフェテリアに向かった。入り口でまどかが待っている。

「まどか、取敢えず入ろうか」

「はい、部長。それから西島です」

「すまない」


 なまじまどかに抵抗が無くなっている分、気が緩んで偶に下の名前を人前でも呼んでしまう。


 二人でトレイに昼食を乗せ、あまり人がいない半個室的な端の方に座るって食べ始めた。


「神崎部長、いきなりお誘いして済みません」

「別に構わないよ。でも何か用事でも?」

「用事では無いのですが、報告が有ります」

「報告?」

「はい。神崎部長は婚約していますよね?」


 会社では、まだ正式に俺が婚約した事は話していない筈だが。まあ、近くの人間には話をしているが。


「何故それを?」

「はい。富永さんから聞きました。彼、私の夫になる人です」


 ゴフッ!


「えっ?富永さんがまどかの夫?」

「はい、私が営業部長と一課、二課のセクレタリを兼ねて遅くまで仕事をしている時、心配して話しかけてくれたんです。

 もちろん神崎部長と私が普通に話すので最初はどういう関係なのか聞かれた事も有って、色々話をしている内に親しくなりました。もう一年になります。


 始めて結婚を申し込まれた時、断ったのですが、何回も諦めずに申し込まれて、彼の思いを受け入れる事にしました。勿論、彼は神崎部長と私との過去も全部知っています。


 でも私が結婚を考えるようになった一番の理由は御手洗さんの移動の時です。彼女からは神崎部長との関係を聞きました。初めの内はライバル視みたいな感じでしたが、半年前に彼女が最新テクノロジー事業部へ移動する理由を私に話してくれました。彼女も私と神崎部長の関係を知っていましたので。


 それで神崎部長が、婚約した事を知り、私ももう遅い事を理解しました。もちろん、部長との会話の中でそんな事微塵も出しませんでしたけど」


 だから最近余計にさっぱりとした物言いだったんだ。


「そうだったのか。良かったじゃないか。富永さんは、仕事は出来るし真面目だし、俺もからも推薦できる人だよ」


「良くない!りゅう。私はあなたと…」


 彼女が少し大きな声を出したので周りの人が俺達の方を見た。直ぐに元に戻ったけど。


「ごめんなさい。こんな事言う為に会ったんじゃないんだけど。りゅうが酷い事言うから」


 俺、なんか酷い事言った?


「式は、まだ先です。開発部が落着かないと彼も落ち着かないので」

 俺と同じだな。


「そうだな。俺も同じだ」


 その後、食事を終わらせると彼女が立ち上がり様に


「りゅう、愛していた。過去の事はもうどうしようもない事。でも一時でもあなたとの間を元に戻せるかと思っていた。

 …これが現実なのよね。さよなら、りゅう」


 それだけ言うと彼女は俺の前を去って行った。


 俺は、少しの間だけ、頭を冷静にする為にそこに留まった。



 御手洗さんに続いてまどかもか。でもこれでいいんだ。なのに何故か、俺は心の中に少しだけ重石の様なものが乗っかった気がした。



 自席に戻ると富永さんが俺の顔をジッと見たが、その後、ぺコンと頭だけ下げた。もうまどか、いや西島さんから話しは届いているのだろう。




 午後二時からの専務執行役員会議に出席した俺は、現在進められている名古屋の企業、傘下の企業及び関連企業への商用AI導入進捗を報告した。特に進捗に遅れは無く、プラグインのテストも順調に進んでいるので出席している本部長、常務執行役員及び専務執行役員は満足した様子だった。後半年で本稼働に入る。


 営業部からは、大阪と静岡の業界トップ企業が導入を決定した事が報告されていた。


 だが、最後に飛んでも無い事を専務から言い渡された。



「神崎開発部長。半年先の話になるが君をUSの我が社の商用AIビジネス最高責任者として派遣する。副社長待遇だ。異存はないな」

「私が、ですか。ですがまだ他の業種のトップ企業の事も有りますが?」

「その事については、名古屋の件で開発部隊とパートナー企業が十分に経験を積んだ。それを成功事例として次に向かえばいい。

 君にはUSの市場を任す。かの国の既存企業も必死だからな。連れて行く人選は君に一任する」

「分かりました」


 専務執行役員会議が終わった後、本来は直ぐに現地との調整や人選に取り掛からなければいけないが、今日だけは帰る事にした。精神的に疲れたのが本音だ。


 季節はもう四月も半ばだ。大分暖かくなって来た。思えばここに来て六年早いものだな。名古屋の件も後半年でカットオーバーする。しかし、ここまで良く走って来たものだ。




 俺は途中で食事をする気にもなれず、コンビニで弁当を買うと午後八時にはアパートに着いた。


 キッチンから明りが漏れている。優香がいるんだろう。俺はドアを開けると

「ただいま」

「お帰りなさい」


 小さな玄関で俺を迎えてくれた。


「こんなに早く帰って来るなら連絡くれれば良かったのに。一人でご飯食べちゃった。りゅうは食べたの?」

「いやまだだ。コンビニで弁当買って来た。ところでスナックはどうした?」

「うん、今日はママさんの都合でお休み」

「そうか」


 優香は少しずつだが、自分のアパートの荷物を俺の所に持って来ている。一人では充分広かった1LDKが大分手狭になった。本当なら2LDK位の所に越すのが本当なんだろうけど、今回の専務からの命令で遠のいたな。


 俺がスーツを脱いでいると

「コンビニ弁当だけじゃ、体に悪いからちょっとアレンジしてあげる」


 どうするのか分からないが、俺が部屋着に着替えている間に、ご飯部分とおかず部分を分けてお茶碗と皿に盛り、更に野菜を付け加えていた。コンビニ弁当の影も無くなっている。


「美味しいよ」

「ふふっ、そうでしょう」


「優香。大切な話がある」

「なに?」

 まさか、別れようなんて言わないよね。



「優香、USへ行く気有るか?」

「US?どうしたの、いきなり?」


 俺は今日開催された専務執行役員会議の事を話した。


「えーっ。りゅうが行くなら私も行くけど。結婚はその後になるの?」

「いや、一応三年が目途だが、何年になるか分からない。だから入籍だけする。夫婦と婚約したとは言え他人では、会社からの支援が全く異なるからな。でも式は上げられないぞ」

「ぶーっ、って言いたいけど。いいわ。りゅうを好きになった時から覚悟していたから」

「そうか。悪いな。両方の両親にも話しをして証人になって貰い、今度の日曜日に婚姻届けを出す」


「ふふっ、ついにりゅうのお嫁さんになるのかぁ。でもお母さんになんか言われそう」

「そうだな」


―――――


富永さん何者、なんで急にまどかと結婚話って思う読者様多いと思うので次話でその辺を


投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

 

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