5. 配信②

 佐助が地面を踏んだ瞬間、ストップウォッチが動き出し、佐助の体が煙に包まれた。が、すぐに煙を裂いて、黒い影が飛び立つ。それは1羽のはやぶさだった。『闇魔あんま忍法――変化の術』によって、佐助は隼になった。さらに、その体が徐々に燃え上がる。『炎魔えんま忍法――火天かてん』。炎を体にまとい、後方に噴射することで、推進力も得えながら、ダンジョン内の風を切る。


 前方に4つの穴。左から2番目の穴に進む。前方から音。3人組の冒険者がワームの群れと戦っていた。彼らは横に広がり、佐助の存在に気づいていない様子。しかし隼になった佐助には、関係ない。頭上を越え、追い抜いた。そのまま進むと、スライムの群れが出現。しかし、地上の水たまりなど、隼となった佐助には恐れるに足りず。優雅にその上を飛び去る。


 前方に3つの穴と悩んでいる冒険者集団が現れた。佐助は右の穴を選択。再び現れたスライムの群れも一瞬で通過。右曲がりの急カーブが現れる。減速することなく通過。今度は左曲がりの急カーブ。しかし、これも問題なく通過する。


 前方に5つの穴が出現。佐助は中央の穴を選択。3体のワームに遭遇するも、一瞬で通過。さらに上からワームが飛び出してきたが、全てを置き去りにした。アップダウンの激しい道になるも、佐助は流れるように飛んだ。


 前方に2つの穴。右を選択すると、坂が出現。坂に沿って飛ぶと、その先に巨大な岩があった。佐助は左の壁に翼で触れる。魔方陣が現れ、岩が転がりだした。佐助は岩と天井の隙間を抜ける。その先に穴が現れた。


 佐助は穴に飛び込む。暗闇に包まれたトンネルになっていて、佐助の体が辺りを照らす。壁や天井からスライムが染み出すも、それらを全て置き去りにした。前方が開ける。地面よりも天井の方が近い高さ。そこは広間だった。佐助は出口付近に急降下し、人間に戻って出口の階段を踏んだ。ゴール。画面に表示された記録は――3分02秒。大幅な記録更新だ。


「はい。ゴールしました」


 佐助はスマホを確認し、自身の記録を見て、誇らしげに鼻を鳴らす。


 そのとき、フロアの方から音がした。目を向けると、この階のフロアボスであるビックスライムと冒険者が戦っていた。フロアボスは、倒しても一定時間後に復活することがあり、最後の障害として立ちはだかるのだが、RTAでは倒す必要が無いし、とくに問題なかった。


「ちょっと、他の冒険者がフロアボスと戦っているみたいなんで、移動しますね」


 佐助は階段を下りながら配信を続ける。


====================


ココア:はや

ココア:◇10,000円

ココア:おめでとう


====================


「あ、ヒシスパチャありがとうございます!」


 ヒシスパチャは現在貰えるスパチャの中でも最高額となっている。いきなり最高額をスパチャしてくれるなんて、ココアさんは良い人に違いないと思った。


(これから、どうしようかな)


 もう今日のRTAは終わった。続けて、B3階のRTAを行うこともできるが、ルートの最終確認を行っていないし、別の枠で配信したい気持ちもある。


(今日はもう終わりにしよう)


 ユーザーとのなれ合いは求めていないし、B3階のルートも確認したいので、配信を終了することにした。そのとき、コメント欄が動く。


====================


ココア:顔出しはしないの?


====================


「あ、すみません。するつもりはないです」


====================


ココア:オフ会は?


====================


「オフ会ができるほどのチャンネルじゃないですよ。仮にできたとしてもやりませんし」


====================


ココア:なら、どうしてこの配信をしているの?


====================


 佐助は言葉に詰まったが、口当ての下で照れくさそうに微笑みながら答える。


「まぁ、RTAに興味があったというのもありますけど、自立のためでもありますかね。最近、仲の良い友達とうまくいってなくて、その原因というのが、つまるところ、俺がその友達に甘えすぎていたのが原因でした。だから、こうやって1人で配信することで、少しずつ、自立していこうかなと思ったんでした」


====================


ココア:なるほど


====================


 コメント欄が動かくなったので、ココアからの質問は無いと判断し、配信を止めることにした。


「あ、ココアさん、すみません。今日の配信はここで終了したいと思います。いきなり始めたので、見てくれる人がいるか心配でしたけど、ココアさんのおかげで頑張ることができました。ありがとうございます! またRTA配信を行うので、良かったら見てください」


====================


ココア:うん。絶対見る


====================


「それでは、また」


 佐助は配信を終了し、カメラもしまった。その顔は明るい。今日の配信は視聴者が1人しかいなかったが、ちゃんと見てくれる人がいるとわかっただけでモチベーションになる。


(自立への第一歩としてはまずまずの出だしだな)


 佐助はスキップしながら、ルートの確認に向かった。


 ――その日、B2階に不死鳥が現れたと話題になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る