2. 幼馴染

 翌日。佐助は眠気眼でスマホを確認し、跳び上がった。午前10:00。1限目の講義が終わりそうな時間だった。当然だが、今更大学に行ったところで間に合わないし、下手したら2限目の講義も遅刻してしまう。


(まぁ、今日は2限目の授業が無いから良いけど……)


 ただ、1限目の講義は無断欠席になってしまった。毎日、心に起こしてもらっていたのだが、どうして今日は起こしてくれなかったのか。


(もしかして、ガチで怒っているのか?)


 佐助は焦りだす。これまでにないパターン。いつもは一夜明ければ、機嫌が直っていたのだが、今回は違うらしい。メッセージアプリを確認するも、既読無視。冷蔵庫を確認すると、いつもはあるはずの朝食が無かった。ベッドに戻る途中で、空のペットボトルが転がっていることに気づく。いつもなら、心が片付けてくれる。


(やべぇ、どうしよう)


 佐助はベッドに座って頭を抱える。紀夫とは不仲になっても別に良かったのだが、心との仲違いだけは避けたかった。普段は世話好きな女の子といった感じなのだが、たまにとんでもない狂気を見せるので、心とは一緒にいて飽きなかった。だから、すぐにでも関係を修復したいところではあるが、その術がわからない。佐助には困ったときに相談できる友達がいなかった。家族には恥ずかしくて相談できないし、完全に詰んでいる。


(誠意を見せるしかないか)


 佐助はメッセージアプリを開いて、『昨日はごめん。話がしたい』と送る。すぐに既読になるも、返信がないので、佐助は眉根をよせる。この状態の心をなだめる術がわからない。しつこくメッセージを送るのも違うだろうし、とりあえず、時間をおいてみる。


 佐助はため息を吐いて、部屋を見回した。部屋は細かいところまで掃除が行き届いていて、心のありがたみがよくわかる。


(心の優しさに甘えすぎていたのかもしれないな)


 今回だって、普通なら許されないけど、心との関係性なら何とかなると思っていた。しかしその思い込みが、心との衝突を生んでいる。


(……もしかしたら、自立する良い機会なのかも)


 今回の件についてポジティブに捉えるとしたら、そうなる。今までは心に頼ることが当たり前だったが、これからは自分でいろいろ考えながら生活していくフェーズになったのかもしれない。


佐助は、ローテーブルの上にあるカメラに気づく。配信のために買ったカメラ。なんだかんだ楽しかった配信の思い出が蘇る。


(もしもこのまま、心と仲違いしたままだったら、どうしよう)


 無いとは思うが、それもありうる未来。もしも心がいなくなったら、自分にはダンジョンしかない。


(……ダンジョンに行くか)


 考え事をしたいとき、散歩をする人がいるように、佐助も考え事をしたいとき、ダンジョンに潜るようになっていた。佐助はモヤモヤした気持ちを抱えたまま、ダンジョンへ向かった。

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