第11話「闇鍋ガチャを回す」

『今なら高レアリティの排出確率アップ中!』


 そんな胡乱な声が頭に響いて目が覚めた。人間の声とは思えなかったがどうやら夢の中の話らしい。俺とマリアはのんびり野宿をしていたところだ、そんな中に訳のわからない信託を降らせるのはやめていただきたい。神とは一体何を考えているのだろうか?


 そう考えながら『採掘』を軽く使用してガチャ一回分くらいで済むであろう石を生成する。ところがそれでガチャを回そうとすると『必要アイテムが足りません』と頭の中に響いた、その声はエコーがかかっており、深く考えると頭が痛くなりそうだった。


『採掘』


 地面からニョキニョキと石が生えてくる。何度見ても奇妙な光景だが、一々そんなことで驚いていたらキリがない。採掘を使用して出てきた石を全部使用してガチャを行う。


 地面に魔方陣がきらめき、銀色が七つ、金色が二つ、虹色が一つの全部で十個の魔方陣から武器が出てきた。仲間の類いは召喚されなかったようで、全て装備だった。


「わあ! マイナーさん、この剣ってすごくかっこいいですね! しかも見た目の割に持ちやすい!」


 マリアは嬉しそうに剣を振り回している。剣からは金色のオーラがほとばしっている。なかなかに性能の高そうな剣だ。


「そういえばマリア、その剣に鑑定レンズを使わないのか? 不良品かもしれないぞ?」


 コイツは鑑定レンズを持っているのだから調べれば俺のスキルの詳細も多少は分かるかもしれない。


「この前やってみたんですがね……どうやらマイナーさんの出したアイテムには鑑定レンズが使えないようでして、多分この世界の理の外にあるんでしょうね」


 そう言ってのけるマリア。よく分からないものに命を預けるなど正気の沙汰とは思えないが、コイツの度胸と執念からすれば大したことではないのだろう。


「そうか、知っている奴がいないと分からないか」


 仕方ない、切れ味がよさそうなものを持って次の町へ行くとするか。


 俺は金色の光に包まれていた剣を一振りとりだして振ってみた。いい感じに切れ味がよさそうだし、その辺の魔物には十分だろう。町へ入る前に大量にガチャを引けばいいさ。やはり助っ人が欲しいところだし、出来ることなら採掘を使用する必要が無いように大量のアイテムを収納出来るものが欲しいところだが、それは贅沢の言い過ぎというものだ。


「よし、じゃあマリアも準備は出来たか? そろそろ次の町に出発するぞ」


「大丈夫です! 私にかかれば魔族なんてバッサバッサと切り捨てていきますよ。魔族は根絶やしにしなければなりませんしね!」


「お前は過激だなあ……」


 ふんすと主張しているが、迫力は無い、いや、剣の迫力は十分にある。むしろ本人が剣以下の迫力しか出せていない。しかしその憎しみだけは十二分に伝わってくる迫力があるので、並の魔族なら出会った瞬間に逃げ出しそうだ。旅の間はお供は必要無いだろう、魔王軍の連中と戦わないなら食べ物なども必要になってくるキャラを必要以上に増やすことはないだろう。


「まあいいや、歩くぞ」


「はい! 魔族共を滅多斬りにしてやりましょう!」


「物騒なやつだな……」


 あきれながら俺たちは旅路を行く。のんびり次の目的地まで歩いていると時折魔物が出現することもある。そんなものは憎しみに満ちたマリアの敵ではなく、サクッと切り捨てられていく。と言ってもゴブリンやコボルトなどの雑魚ばかりなので強い武器を持っていればそりゃ勝てるだろうという相手ばかりである。しかしそれらにもまったく手を抜くことは無くマリアは根絶やしにしていく。


「なあマリア、雑魚を強すぎる力で根絶やしにするのに抵抗とか無いの?」


 俺はなんとなくそんなことを訊いてみた。まあ世間話のようなものだ、あまりにも好戦的なマリアにその心情を訊いてみたかった。


「無いですね。魔族も魔物も滅ぶべきですよ、等しく皆悪であると思っています」


 迷いの無い声だった。どうしようも無い話だが、魔族もさぞやマリアの家族を殺したことを後悔することだろう。そのために一体どれだけの血が流れるのだろうか? そんなことを考えていると、道の脇から出てきた蛇が真っ二つにされた。


「いいですね、これ。使い捨てなのが惜しいくらいですよ」


「使い捨てって……わけでもないがな。役目を終えたら消えるみたいだな」


 今回のガチャで出てきたものは多分次の町なり村なりに着いたところで消えるのだろう。


「もったいないですねえ、当たりが出たらずっと使いたいんですがね……」


 それはそう、理想としてはそうであってもスキルの特性上消えてしまうのは仕方ないことだ。そんなことを言っていると大ネズミが出てきたのでマリアの剣でバッサリと切られた。迷いの無い剣筋で、生き物を殺すことに一切のためらいは無い。


「楽しいですねえ! もっともっと魔物と魔族の皆さんは出てきませんかねえ!」


「狂戦士だな……手に負えないよ」


「マイナーさん、そんなに褒めないでくださいよ! 私だって照れちゃうじゃないですか!」


「今のが褒め言葉に聞こえるあたり価値観の相違は埋まりそうにないな……」


 まあ人間を襲っていないので問題無いと言えばないのだが、出来ればもう少しまともに生きていくことを諦めないで欲しいものだ。


 俺は人間が人間らしく生きていける世界をマリアと作りたいと思う。こんな魔族と戦争に明け暮れるような世界は醜すぎる。その世界に魔族が居ることはないだろうが、これは人間との戦いなので和解など無い。どちらかがこの世から消え去るまで続く戦いだ、引き際なんてものはとっくにお互いが踏み越えている。


 そして……人類の切り札になるかもしれない少女が隣にいる。少しだけ性格が物騒だけれど、とても頼りになる。


 それは力ではなく精神力だ、躊躇うことなくて気を切り裂くその信念と、戦い続けることをなんとも思わない心だ。その二つに俺の呼び出した武器があれば敵におくれを取る心配は無い。


「どうしたんですか? なんだか難しいことを考えてませんか?」


「いや、この先の戦いのことを考えていたんだ。マリアは戦い続けるつもりなんだよな?」


「当たり前じゃないですか! 魔族を滅殺することこそ市場目標ですよ、なんなら人間が魔族と和解しても私は魔族を殺し続けますよ」


 どこまでも冷たい声音でそう言う、俺たちの先には戦場しかないのだろう。それでも勝てるなら問題無いか。


「ニンゲン……シネ」


「雑魚が鬱陶しいんですよ」


 サクリと出てきたオークを腹から真っ二つにするマリア。知能の欠片を多少なりとも持っている相手であっても平気で倒せるんだから心強い。心強いからこそ絶対に敵に回したくないと思う。俺のガチャ装備を全部取り上げても素手で殺しにか狩ってくるようなやつだな……

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