第13話/未来を変える為に



 そして翌朝である、目覚めた途端にシステムから未来予知を告げられて七海は頭を抱えた。

 佐倉紫苑の次なる死の可能性。

 幸いにして覆すのは容易そうで、だが。


(それでいいのか? 何も知らせずに?)


『ネタバレは厳禁であるぞご主人、何も知らないことにより生の感情を得られるのだッ! そう! ラキスケには恥ずかしさが重要!! 何も言わずに進めることでよりエッチなハプニングが楽しめるってもんだ!!』


(あえてソッチの流れに乗るけどさ、――わざとエッチなハプニングを演じる羞恥心ってのもあるんじゃないか?)


『ぬぅッ!? ご主人は天才だぁ!! このシステムめの盲点を突くとは……むむむ、捨てがたい、捨てがたいぞぉ!!』


(はいはい、ま、冷静に考えれば答えは一つしかないけどね)


 ラッキースケベ、性癖云々の話ではない。

 命がかかっているのだ、本人に話して対策を取るべきである。

 未来予知のことも話しているのだ、何の遠慮もいらない。


「――最初からそうすればよかったよ」


「はい? なんですか先輩、もしかして……カレーの味が変になってる??」


「カレーは凄く美味しい、ただ悪い情報が入ってきてね」


「悪い情報? え、テレビもかけてないしスマホも――――あ、もしかして」


「うんそう、お察しの通り未来予知さ。紫苑の危険な未来が見えたんだ」


 朝食のカレーを堪能しつつ七海は、言葉を選び始めた。

 その様子に紫苑はピリッと嫌な予感を覚え、右手のスプーンを強く握りしめながら顔を引き締める。

 対して彼は気まずそうに、何度か口を開け閉めした後。


「…………今日の午後、体育倉庫に閉じこめられるんだ」


「今日の午後……体育の授業がありますね」


「うん、体操着だった。不運にも君は誰にも発見されず救出されたのが次の日の朝だ」


「ううっ、それはまた地味に嫌な……でもこうして伝えてくれたって事は解決なんて楽ちんじゃーん! ――あれ? でも確か死に繋がる未来ですよね? え? 閉じこめられただけで私死ぬの!?」


 目を丸くする紫苑に、さぁここからだと七海は気合いを入れた。

 午後から翌朝まで閉じこめられる、真夏でも真冬でもなく今は秋、普通は死なないだろう。

 だからあくまで体育倉庫に閉じこめられるのは切欠でしかなく、当然、原因というものがあり。


「………………体育倉庫に次の朝まで閉じこめられてさ、何が問題だと思う?」


「そりゃあ、お腹が空きますよ、のども渇くし」


「他には?」


「えー……、あっ! トイレ!! トイレの問題だ!! え? もしかして私、我慢してたんですか? それで膀胱破裂して死ぬ!? まさか!?」


「あー、惜しい……? かもしれないけど少し違う、少しイメージしてみてよ、限界まで我慢して、もうダメだって、緊急避難的にするでしょ?」


「まぁ、そういう時はギリギリまで粘る方なんで可能性はあるけど……それだけで死ぬ?」


「開放感に包まれたその瞬間、――俺が助けに入ったら?」


「…………………………あー…………」


 深い、深い声が紫苑の喉から漏れた。

 思わず天井を見上げる、想像は容易い。

 死ぬ、それは死を選ぶ、だってそうだ許容キャパを越えている。


「きっと、七海先輩は一生懸命探してくれた後ですよね?」


「そんな感じだった、気づいてからずっと探してたかもしれない」


「もしかしてもしかするとですね、ええ、そんな状況になった場合………………新たな扉が開いちゃうかもなんですよ、ええ、私って結構ヘンタイな感じなんで」


「なるほど?」


「でもですね、その状況で新たな扉を開いた事がですね、先輩に助けられたことも相まって受け入れられなくて、たぶん……激しい自己否定に走るみたいな?」


「そっかぁー、それじゃあしかたないよなぁ……」


 両手で顔を隠し、ずずーんと落ち込む紫苑を前に七海は気まずさを隠せない。

 話題を変えなくては、しかし問題は解決していない。

 だからこそ、彼はにっこり笑って言った。


「それならこの後にでも新しい扉を開けておこうか、君がトイレしてる所を見ていてあげるよ!」


「なんでだよ!? おかしいだろ七海先輩!?」


「なぁ紫苑……俺は君のどんな性癖も受け入れるよ、うん、でもエスカレートし過ぎると流石についていけないから加減を学んでおこうか」


「いやいやいやいやぁっ!? それ前提で話を進めないで!? 開かないからそんな扉!! もおおおおおおおおおっ、理解のある彼氏ですって曖昧な笑顔をするんじゃねぇ~~!!」


「ごめんごめん、じゃあ具体的にどう対策するか話そうか」


「急に切り替えるなっ! うぐぐっ、からかいやがってぇ……私がアタフタするのがそんなに面白いんですか!?」


「可愛い恋人の色んな表情を堪能したいってのは否定しないよ」


「褒めたって誤魔化されないけど、ちょっと嬉しいって思った自分が悔し~~っ!!」


 簡単な言葉ひとつで転がされるなんて、己はなんてチョロいのだろうと紫苑は苦笑した。

 七海がああいったのは、死因に落ち込んだ気分を吹き飛ばす為と理解している。

 とはいえイジワルだ、でもそんな所だって彼女は愛してしまっており。


「……は~~ぁ、じゃあ具体策に移りましょうか」


「こうして君に打ち明けただけで、未来は大分変わっていってる筈さ」


「確かに、直前に逃げるだけで回避できそうですもんね」


『――む、未来が少し変わったぞご主人、回避失敗して何故かご主人の助けが遅くなり最初の未来通りに翌朝に救出。性癖を拗らせてしまって少し遠い未来に夜の特殊プレイが過激になって事故死するッ、ちなみにご主人に言うに耐えない渾名がついて一生ついて回るぞ!!』


「…………………………マジかぁ」


『恐らくだが、未来が変わる条件のひとつにご主人からの直接的なアプローチが必要らしい。その証拠に今の仮定では死の未来が少し延びた。これは未来予知を打ち明けたからだな、よっ、特殊プレイで腹上死させた男!!(仮)』


「え、先輩!? その凄く変な顔は何なんですか!?」


 新たな事実が判明したことは喜ばしい限りだ、しかしもう少しだけ手心が欲しいところ。

 世界はこんな筈じゃなかった、な案件ばかりである。

 こうなれば彼女の死と、不名誉な称号を避ける為にも是が非でも対処せねばならない。


「…………未来を受信したよ。でも大まかに言って紫苑が直前でサボるだけじゃダメみたいだ」


「となると……学校自体をサボるとか?」


「そうした場合の結果は分からないけど、俺が直接介入した方が確実みたいだね」


「つまり先輩に助けて貰わないと、私は死んでしまうと……足でも舐めましょうか? 舐めるの上手いですよぉ! ご主人さまぁ~どうか私を助けてにゃんっ! あ、なんなら今から裸エプロンでぺろぺろしましょうか?」


「魅力的な提案だけど遅刻するから却下ね、…………いやもしかして俺と一緒にサボれば回避できるのか?」


『その可能性は非常に高いぞご主人! なお佐倉紫苑の不幸がこの頻度で起こるとなると、その度にサボっていれば二人そろって留年確定、となれば――不幸が待ち受けているのは言うまでもないぞ!!』


 むぅと唸りながら七海は紫苑をジトっと見た、彼女は楽しそうな様子であるが内心は不安で揺れている筈だ。

 根は真面目で優しい故に、考え込みすぎて思い詰めてしまう紫苑。

 七海としてはそんな彼女の命も、心だって助けたい。


「――最初からサボるのは無しにしよう」


「その心は?」


「フツーにさ、留年とか内申点怖くない?」


「確かに!!」


「だから……午後は俺が早退した事にして体育倉庫で待ってる」


「…………それって、体育倉庫でデートってことぉ!?」


「いいねソレ、いっそのこと楽しんじゃおうか!」


「おおー! 話が分かりますね、じゃあ休み時間に下見して脱出経路とかみたり暇つぶし用の本とか持ち込んじゃおう!!」


「よーし、そうと決まれば登校しよう!!」


 こうして、未来を変える新たな戦いは始まったのであった。


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