第4話

家族での話し合いが終わり、ジェイク兄様が口を開いた。


「父上、母上。

鑑定も終わりましたし、昼食を食べたら3人で出かけたいんですが、いいですか?」


「街へか?」


「はい。

今日はチェルシーの誕生日です。

鑑定が終わるまでは何がチェルシーに必要なのかわからなかったので。」とユースフ兄様。


「いいんじゃないの?

2人とも守れる力は持っているし、自分達で街を見るのも勉強だわ。」


「あぁ、そうだな。

夕食までには戻れよ?

今日は誕生会だからな。」


その言葉に3人で「はい!」と答え、昼食をとるために執務室から出た。





「あなた、チェルシーのことだけど…。」


「わかっている。

王家には何が何でも隠すさ。

別に王家との繋がりなど我が家には必要ないからな。」


「えぇ、そうね。

ありがとう。」


多種の属性を持ち、光属性まである。

それに魔力量も。

そんな娘を狙う者が出てくるのはわかっている。

王家に利用されるかもしれない。

政治的な結婚ではなく、シスル伯爵家は恋愛結婚を推奨する家だ。

2人は娘の将来を案じていた。





「チェルシー、あっちだ。

さぁ、行こう!」


元気いっぱいのジェイク兄様に手を引かれ、道具店に着いた。


「店主、俺の妹チェルシーだ。

チェルシー、ここは我が家の馴染みの店だから、家の事情も知っている。

信頼できる店だよ。」


それは…裏のこともってことね。

そう考えているとユースフ兄様と目が合い、ニッコリと微笑まれた。

やっぱりね。


「チェルシーお嬢様も剣術を習うようになったんですね。

では、こちらなどいかがでしょうか?」


いくつか私の手に合うような小さめの剣を出してくれた。

触ってみて、1番手に馴染みそうな物を選んだ。


「チェルシー、まだどちらになるかはわからないから、忍ばせる短剣も買っておこう。

店主、腰用のベルトと足に付けるベルトも一緒に見せてくれ。」


「あの…、短剣は準備できるんですが、ベルトについてはお嬢様用の小さい物はありませんので、作らせていただいても?」


「あぁ、頼む。

採寸はうちのメイドがする。」


「かしこまりました。」


その会話に、「そっか。5歳の女の子が剣を握り、それに足に短剣を忍ばせるなんて、うちだけだものね。」と理解した。


「チェルシーは理解が早いね。

見ていておもしろい。」とユースフ兄様が笑う。


「店主、私も短剣を増やそうと思っていたんだ。

小さめの物と細いキリのような物が欲しいんだけど。」


「裏に準備していますので、お待ち下さい。」


「ユースフ、剣も刃こぼれしていただろう?」


「あぁ、そっか。

ちょっと固いのを切ったからね。

では、剣も。」


8歳と7歳の会話じゃ無いわね。

それを普通に聞いている店主もきっと凄い人ね。


「私もそう思うよ。

欲しい物は言えば作ってくれるしね。」


「ユースフ兄様はとうとう私の頭の中まで見えるようになったのですか?」


「チェルシーの頭の中がわかるんなら、俺のなんて簡単なんだろうな。」


「ふふっ。

兄上の頭の中は筋肉ばかりで、逆にわかりませんよ。」


そう笑って答え、ジェイク兄様が文句を言い、こんなところは普通の兄弟みたいだなと思う。

「チェルシーも笑ったな?」

ジェイク兄様に言われ、それにも笑ってしまった。


その後はユースフ兄様の番になり、道具店を後にし、薬草店に3人で向かった。


「ここも我が家の?」


「あぁ、そうだよ。

父上の乳母だった人がやってるんだ。」


店の扉を開くと、薬草の爽やかな香りに包まれた。


「やぁ、スーザン。

頼んでいた道具は揃った?」


「ユースフ坊ちゃん、いらっしゃいませ。

あら?

もしかして、チェルシーお嬢様?」


「そうだよ。

今日はチェルシーの誕生日だから、一緒に受け取りに来たんだ。

チェルシー、店主のスーザンだよ。」


「初めまして。」

ペコリとお辞儀をする。


「こちらこそ、初めまして。

やだ、可愛らしいこと。

あのエスター様からは想像出来ないような可憐なお嬢様ね。

きっとカイラ様の血を濃く引いたのね。」

そう言って、私を抱きしめる。


「スーザン、父上だって小さい頃は可愛かったんだろう?

そうでなければ父上似の俺が可哀想だ。」


「ふふっ、ジェイク坊ちゃんはエスター様の後継なんですから、諦めなさいな。」


「そうだよね、私もそう思う。」


兄2人と親密な様子に、私も心を開いた。


「可愛らしい顔で笑うのね。」


「あぁ、自慢の妹だ。

それで、道具は?」


忘れてたという風に奥に行き、真新しい道具を持ってきてくれた。


「ユースフ兄様、これは?」


「これはね、薬草をすり潰す道具や薬を調合する道具だよ。

ここの魔石に魔力をこめると簡単に温めたり冷やしたりできるようにしてもらったんだ。」


「魔石ですか?」


「えぇ、そうですよ。

ユースフ坊ちゃまがドラゴンを倒して手に入れられたんですよ。

こんなに上質な魔石はドラゴンぐらい強い魔獣しか持っていませんからね。」


「お前、あの刃こぼれってドラゴンだったのか。」


「えぇ、母上に少し手伝っては貰いましたけど。」


ユースフ兄様の凄さに改めて驚く。

魔獣もお手の物なら、暗殺ぐらい簡単だろうな。

ゲームでも依頼された案件は難なくこなしていたものね。


2人の兄に感謝を伝え、私達の初めての3人でのお買い物は終わった。

夜の誕生会では両親から身を守るための魔石をあしらったアクセサリー一式を貰い、楽しい誕生日を過ごした。


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