第2話

あのゲームの続編に出てくるはずの兄・ユースフ。

確か、騎士団に所属する1つ上の兄はいたはずだ。

だけど、妹の情報は何も無かったはず。

私が知らなかっただけなのだろうか…。


確実に彼はゲームの攻略対象者だ。

それも、かなり厄介な人。

だったら、私は彼の動向を探るのみよ。

私はこの世界での記憶を確かにしようと、家族やメイド達を探った。

そうしてわかったことがある。


シスル伯爵家、それが私の家だ。


まずは父である伯爵家の当主。

エスター・シスルだ。

この国の第1騎士団団長。

それが私の父だ。


「チェルシー、いい子にしていたか?」


私の様子を見に来るお父様。

そのお父様は毎日酷く汚れていた。

時にはその真っ白な騎士服に血が広がっていた。


「あぁ、チェルシー、お前は可愛いなぁ。

ん?これが気になるのか?」


無言で父の服に付く血を見ている私に気づく。


「心配するな。

これは私の物ではない、ただの返り血だ。

父は1つも傷を負っていないぞ。」


そう言って私の頭を撫でようとしたところをメイドに止められ、お手を触れる前に風呂にと促されていた。


「騎士団長であられますから、毎日あのように汚れて…。

でも、お嬢様に汚い手では触れさせませんからね。」


メイドの言葉に、父はこの国の騎士団をまとめる団長だと理解した。

だから、あのように鍛えられた身体で、とても大きいと。

返り血も国を守る為のことだと、そう理解した。

父の仕事は全うな仕事だった。



だけど、問題はお母様だ。


「チェルシーちゃん!

あぁ、もう可愛いわ!

癒やされるわぁ~!」


そう言って抱きつこうとする母をメイドは必死で止めにかかる。


「奥様、手が汚れています。」


「えぇ?

あら、本当だわ。

でも手袋だけよ。」


そう言って母は血塗られた手袋を捨てる。

すかさずメイドが母の手を拭いてくれる。


「今夜は小物だったから、手袋が汚れるだけで済んだのよ。

ねぇ、チェルシーちゃん、いい子にしてた?」


汚れって、手袋が血塗られる?

いや、普通に怖いし。


そんな私の様子に母はふてくされる。


「前から感情が出ない子だったけれど、ねぇ、あなたも感じているでしょう?

この子、大人びているわ。

少しも感情を見せてくれない。

どんな頭の構造をしているのか、気になるわねぇ。

5歳になるまで魔力の鑑定が出来ないなんて、もどかしいわ。」


私の考えていることに気づいたような、そんな母の言葉にギクリと固まってしまった。


「なーんかね、見透かされているようなそんな気がするの。

ね?」


「奥様、あまりお子様の前でそのようなことは…。」


「もう、あなただってわかっているくせに。

チェルシーちゃん、母様にもう少し笑ってよぉ。」


笑えないのよ。

あなたのその血なまぐさい手も、何なら父という人の服に纏わり付く返り血も。

この家は一体何なのかしらと、怯えているのよ。

私が日頃飲まされている毒も、家の事情だと…。


満足するまで母は、ひとしきり私の頭を撫で、可愛がってくれた。





いつも血なまぐさい、第1騎士団を率いている父。

それから、手袋だけを汚して帰り、私に甘ったるい愛情を注ぐ母。

どうやら表向きは父が担っている騎士団長という仕事を生業とする家。

だけど、裏ではゲームで出てきたような闇稼業を仕切るギルド長。

今は母が闇の方を率いているらしい。



そして、私には兄が2人いた。


長男であるジェイク・シスル。

3歳上の兄は父によく似た子どもだ。

騎士として幼い頃から鍛錬し、身体能力も人の何倍もあるらしい。

そして、彼はよく私の部屋の様子を木に登って見ている。

視線を感じるといつも彼が外にいるという、そんな状態だ。

いくら身体能力が高いといっても、ここ3階なのに…。

兄の視線にはもう慣れた。



そして、もう1人の兄。

攻略対象者である2歳上のユースフ・シスル。

彼は学術的に秀でていると思う。

だけど、人としてはどこか欠陥したような気がする。

ゲームでもそうだったが、幼い頃からのようだ。

にこやかに微笑んではいるが、何を考えているのかはわからない。

脳筋のジェイク兄様はあんなにわかりやすい性格をしているのに。


この2人の兄は家の仕事を理解しており、ジェイク兄様は表を継ぎ、ユースフ兄様は裏を継ぐ予定らしい。

私はまだ能力がわからないらしいので、とりあえず毒に耐性をつけながら、読み書きを覚えることとなっている。

ちなみに、この家の者は如何なる状況に置かれるかわからないので、小さい頃から毒に耐性を付けている。

お母様はお父様と婚約した日からだけど。


今は表が父、裏が母だが、お祖父様の時代は逆だったらしい。

お祖母様が女騎士だったことには驚いた。

お父様の婚約者となったお母様の能力を鑑定したお祖父様が「裏を引き継ぐのはカイラだ。」と宣言され、それからは過酷な鍛錬が行われたと。

お祖父様の見込みは間違っておらず、お母様は今や立派なギルド長だ。


読み書きを覚えた私は、家の図書室で我が家に関する書物を読み、家の事情を把握した。

本格的な鍛錬が始まる5歳までの2年間、家族の動向を注意深く観察し、勉強にも励み、毒にも耐えるという生活を送った。


そして、とうとう能力(魔力)を鑑定する5歳の誕生日を迎えた。

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